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「優奈サーン!」

『…喜助か。何用だ?』



今は瀞霊廷も平和で特にすることもなく、私は気晴らしにと思い散歩をしていた。
すると、後ろから声をかけてきたのは先日隊長になったばかりの喜助。
副官であるひよ里を連れている。



「いやあ、優奈サンの姿を見かけたもので」

『そうか。どうだ、ひよ里は。扱いにくいだろう?』

「先日平子サンにも同じこと言われましたよ」



はは…と苦笑いをする喜助にひよ里が蹴りを入れる。



「なんやねん、このハゲ!優奈も優奈や、何言うてんねん!」

『お前も相変わらずだな。喜助は悪い男ではないぞ』

「そうそう、今から蛆虫の巣に行くんっスよ」



”蛆虫の巣”と聞いて、私はあの男のことを思い出した。
危険分子としてそこに収容されているあの男のことを。



『涅…か?』

「ご名答っス!では、また今度遊びに行きますね」



そう言って喜助は嫌がるひよ里を引きずってニ番隊の方向へと向かって行った。
その後ろ姿を見ながら考える。
喜助はどうやら隊長という職の楽しさを発見したようだ。
私にはこの職の楽しさなどかけらもわからないのだが。



『隊長…か』



隊長というのはその隊を預かっている。
もちろん、隊士の命も含めて。
けれども、妹の命すら守れなかった私にこの職に就いている資格はあるのだろうか。
そして、私はその足で一番隊舎へと向かった。
隊首室に入ると、山じいが銀嶺殿となにやら話をしていた。



『お久しぶりです、総隊長殿』



思えば、鈴が死んでからというものまともに山じいと話もしていない。
山じいだけではない、鈴が居なくなってからは一人で居ることのほうが多くなった。



「優奈か。ちょうど、お主のことを話していたのじゃよ」



柔らかい笑みを向けられて、どうしていいのかわからなくなる。
銀嶺殿も私のほうをにこやかな表情で見ている。



『何か…ございますか?』

「そうかしこまらんでもよい。この頃瀞霊廷内でお主のことが噂になっておるようじゃの」



噂というのは、おそらく惣右介が言っていたことだろう。
十番隊隊長は血も涙もない冷徹な人間だ。
山じいの耳にも入るくらいなのだから、大部分の人が知っているに違いない。



『申し訳ありません。私の力量不足です』

「謝らずともよい。優奈のことは儂らもよう知っておる」



銀嶺殿も静かに頷いた。
申し訳ないとは思っている。
十番隊の隊士は私に恐れを抱いているのがみてとれるし、他の隊の隊員までもが私を避けている。
隊長職を解かれるのだろうか。
それでもかまわないと思った。



「優奈に稽古をつけてほしい子が居るのじゃ」



山じいから聞かされた言葉は意外なものだった。

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