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『皆、迷惑をかけてすまない』



目を覚ました翌日、私は仕事に復帰した。
もっと休んでいろと言われたが、これ以上迷惑をかけるわけにはいかなかった。



―――――



『破道の九十、黒棺』

「凄いな、九十番台詠唱破棄か」



業務時間も終わった頃、私は一人隊舎の裏で修業をしていた。



『惣右介…』

「最近は君の噂で持ちきりだよ。十番隊の隊長は血も涙もないって」

『それは心外だな』



鈴が死んで一年が経とうとしていた。
私は副官を置かず、一人で十番隊を切り盛りしていた。
鈴が死んで、私には守るべきモノがなくなった。
非番の日はただひたすらに修業をし、少しでも強くなろう、そう思っていた。
けれども強くなるのは何のためかと聞かれれば答える当てもなく、ただ強くなりたい一心だった。



「平子隊長も心配しているよ。優奈の様子がおかしいって」

『皆に言われる』



最近いろんな人に言われる。
”優奈は変わった”と。
別に変ったわけではない。
これが本当の私なのだ。



『惣右介も私が変わったと思うか?』

「私はそうは思わないよ。ただ、本来の君に戻っただけさ。学院に居た頃の君に、ね…」



そう、彼は私のことをわかってくれている。
死神になって多くの人に慕われるようになり、表情の固かった私も笑うことを覚えた。
言葉づかいも物腰も、見違えるように柔らかくなった。
しかしあの日、鈴が死んでから私は笑うことを忘れた。
泣くことも忘れた。
感情をどこかに置いてきてしまったようだった。



『おかしいと思うか?死んだ者のことをいつまでも引きずって…』

「私は構わないと思うよ。どんな君でも君に変わりはない」

『そうか…』




私が隊長になって四年が過ぎた。
今日は新しい隊長の任官式で一番隊に来ている。



「優奈、久しぶりやのう」

『平子か。相変わらずだな』

「真子や言うとるやろうが。ったく…」



入り口で五番隊の二人に会い、平子はいつものように親しげに私に話しかける。
今でもこの男は私の憧れであることに変わりはない。
しかし、今の私はこの男より強い。
そんな自信が私にはあった。



「「優奈(ちゃん)!」」

『京楽に浮竹か。相変わらず元気そうだな』

「優奈ちゃんは相変わらずクールだねぇ〜」



この人たちも以前と同じように私に接してくれている。
しかし、私は以前…妹がまだ生きていた頃にどのように接していたのか思い出せない。
まるで記憶をなくしてしまったかのようだった。



「曳舟は今日はもう来ていないみたいだな」

『零番隊に昇進なのだろう?仕方ないさ』

「昇進!?」



惣右介が珍しく話に入ってきた。



『ああ。曳舟は零番隊昇進のために十二番隊を抜けたのだ』



部屋に着くと、どうやら新入りはまだ来ていないようで、私たちはいつものように並んで待っていた。
しばらくすると、一人の男が中に入ってきた。



「ありゃ?もしかして…ボク一番最後っスか?」

『喜助…』



新しい十二番隊の隊長は浦原喜助だった。



「皆さん、初めまして!」



笑顔で挨拶をする喜助を見ていると、自分が隊長に就任した時のことを思い出さされた。
悪夢の前触れのようなあの一時の幸せな時間を。



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