その日もいつもと同じように保健室でだらだらと琥太郎の仕事を手伝っていた。
理事長代わりっていうのも大変そうだ。
そんな時に現れたのはいつものごとくあの暑苦しい先生で。



「直獅くん、どうしたの?」
「リカ!お前弓道部に入る気ないか!?」
「ない」



即答すれば彼は目に見えて落ち込んだ。
全く、どこから情報を仕入れてきたんだか。
琥太郎に目を向ければ、俺じゃないといった顔をされた。



「ならさ、せめて見学だけでも!」
「見学くらいしてやれよ」
「もう……わかったよ」



直獅くんに連れられて弓道場へと向かう。
張りつめた空気。
この空気に触れるのは何年ぶりだろうか。



「リカちゃん!」



私の姿を見て笑顔で走ってくるのは月子。
そういえば彼女って弓道部だったんだっけ。



「弓道部に入るの?」
「ううん、先生に言われて見学しに来ただけ」
「リカはな、小さい頃から弓道をやっていたんだ!」
「陽日先生、余計なことは言わなくていいです」



そう言い放つと、直獅くんはまた落ち込んだ。
月子はそんな彼を心配している。
わかりやすい教師というのも考えものだ。



「初めまして、僕は部長で二年西洋占星術科の金久保誉」
「神話科の月城リカです」



二年で部長?
ああ、インターハイに出れなかったからもう三年は引退したのか。
如何にも良家のお坊ちゃんって感じの人だなあと思いながら彼を見ていると、彼は思い出したように口を開いた。



「ねえ、君もしかしてリカちゃん?」
「え……はい」
「僕だよ!小さい頃家に良く来てたでしょ?」



記憶を辿れば、この鮮やかな髪色には覚えがあった。
小さい頃、お茶の稽古に行っていた家の息子だ。



「ああ、誉!」
「久しぶりだね。すっかり変わってたからわからなかったよ」
「随分と昔のことだしね」



もう十年近く前の話になるだろうか。
再開を喜んでいると、月子と直獅くんは不思議そうな顔で私達を見ていた。



「知り合いだよ、誉の家にお茶を習いに行ってて」
「でもさ、リカちゃんって確か僕より年上じゃなかったかな?」
「そうだよ。誉の一個上」
「嘘!?」



素っ頓狂な声を上げたのは月子。
そういえば言ってなかったんだっけ。
直獅くんには事情を話したような気がするけど。



「ごめんごめん、言ってなかったね。私月子の二個上なんだよ」
「全然知らなかった……」



そりゃあそうだろ。
考えてみれば、会長と桜士郎以外は知らない気がする。
別に自慢して回るようなことじゃないし、まあいいか。



「リカちゃん弓道部に入るの?」
「ううん、入らない」



少しだけ残念そうな顔をした誉と月子に別れを告げて、私は先ほどまで居た保健室に戻った。
弓道も楽しかったけど、毎日練習するのも面倒だし。
誉がこの学校に居ることがわかったのが今日の収穫だ。


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