「どう?星月学園は楽しい?」
「んーまあまあ。琥太郎居るしね」
「琥太にぃは世話好きだからね。きっとリカのこと心配してるんだよ」



それはきっと郁ちゃんにも言えることだよ、その言葉を直前で飲み込んだ。
ただいまゴールデンウィーク真っ最中。
帰る実家のない私は、遠出をして幼馴染の郁ちゃんこと水嶋郁に会いに来た。



「でもまさか、リカがそのままで学校に行くなんてね」
「郁ちゃんまで同じこと言わないでよね」
「ごめんごめん、まあそのほうがリカって感じはするけど」
「でしょ?」



クスクスと二人で笑いあう。
こうしていれば、郁ちゃんは昔のままなのに。



「で、この前の彼女とはまだ続いてんの?」
「この前……ああ、彼女とは別れたよ」
「何人思い浮かべてんだよ」
「内緒」



日本に戻って来て二年間。
暇で暇で仕方がなかった私は、時折郁ちゃんを呼びだしては遊んでもらっていた。
会う度に違う彼女がいる郁ちゃん。
きっと彼も私と同じだと思った。



「リカこそ今は?」
「私は郁ちゃんとは違うからさ。恋とか愛だとか、考えることすら面倒」
「リカらしいよ」



それを言うなら、彼だって彼らしいと思う。
人間を信用してない、だなんて琥太郎が心配するのも最もだ。



「郁に会って来たんだろ?元気にしてたか」
「相変わらず。元気っちゃあ元気だね」



そうか、と一言呟いて琥太郎は保健室のベッドに横になった。
連休中はとにかく暇で仕方がないのだ。
暇つぶしにと保健室に来てみたはいいものの、相変わらず琥太郎はのんびりとお茶を飲んでいて。
こんなことしてる暇ねえだろと言えば、一応やることはやっていると返された。



「郁ちゃんさ、大学で教員免許取るんだって」
「アイツが教師か?似合わないな」
「琥太郎に言われたくないと思うよ」
「それもそうか」



私はずっと、教師ってのはそうだな……直獅くんみたいな人ばっかりだと思っていた。
暑苦しくてちょっとうっとおしい。
だから、向こうに居る時に琥太郎が保健医になったって聞いて驚いた。
ついでに、この前郁ちゃんが教員免許を取るって聞いたときも驚いた。



「琥太郎センセ、今日暇!?」



保健室のドアが勢いよく開いたと思ったら、その暑苦しい教師が入ってきた。
琥太郎はめんどくさそうにその教師、直獅くんを見た。



「暇じゃない、俺は寝るのに忙しい」
「暇だってことだな!今日呑もうぜ!」
「いいなー私も参加していい」』



ソファに横たえていた身体を起こせば、直獅くんはビクッと身体を震わせた。
もしかしなくても気付いていなかったのか。



「未成年は駄目!」
「えー、じゃあ琥太郎も行かない」
「まあいいだろ、俺も酒飲まないしリカも一緒に」
「琥太郎センセがそう言うなら……」
「じゃあ屋上庭園にレッツゴー」



まだ寝転がっていた琥太郎を起き上がらせて、私達は屋上庭園へと向かった。
別にどこでもよかったんだけど、此処が一番人が来なさそうだったから。
いい暇つぶしだ。



「お、そろそろ日が暮れるから天体観測もできるな!」
「そうだな」



二人はオレンジから黒に変わりつつある空を眺めていた。
私はといえば、じっと携帯の画面とにらめっこ。
特に何があるわけでもないけれど。



「何だ、リカは面白くなさそうだな?」
「だって別に私星に興味ないし」
「星月学園に入ったのにか?」




直獅くんは不思議そうな目で私の顔を覗き込んだ。
それもそのはず。
この星月学園はカリキュラムが専門的で、よっぽど興味のある人以外は入ってこない。



「日本に戻る条件だったからさ」
「まあいいだろ、ほら酒」



琥太郎が話を遮るように直獅くんに缶ビールを渡した。
そして私と自分にはちゃっかりジュースを用意していた。
それから案の定直獅くんは酔っぱらい、私と琥太郎で介抱するはめになってしまったのだ。


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