下らないと思っていた。
何もかも。



「リカ、さっさと準備しろ。遅刻するぞ」
「わかってるよ。琥太郎は煩いんだから」



聞き慣れた小言に耳を傾けるフリをして、真新しい制服に袖を通す。
今日から私は高校一年生だ。
世間一般で言えば、もう三年生になる年齢ではあるんだけど、細かいことはどうでもいい。



「送ってってやるから」
「いいよ、子供じゃあるまいし」
「そうしないとお前サボるだろうが」



どうやらこの人には何でもお見通しのようだ。
さすがの私も入学式くらいは行くつもりだったんだけど。
髪を梳かして鏡の前に立てば、どこからどうみても立派な高校生。



「行くぞ」
「はいはい」



琥太郎に連れられて、私は星月学園の門をくぐった。
周囲の生徒達がじろじろとこちらを見ている。
そういえば琥太郎は先生だったと思い出して、隣を歩く琥太郎を見れば目が合った。



「リカ、学校では呼び捨てにするなよ」
「わかってますよ、琥太郎先生」
「お前に言われると鳥肌が立つな」
「アンタがそう呼べって言ったんでしょうが」



睨みつけてやれば苦笑いをされた。
これが大人の余裕って奴か。
何か悔しい。
琥太郎と別れて教室に入れば、一斉に私に視線が集まる。
私はこの学校にたった二人しかいない女子生徒の一人。
その一人がこんなんだったら誰だって驚くだろう。
視線を気にすることなく、用意されていた席に座った。
隣に座っているのは何とも真面目そうな男。



「初めまして、僕は青空颯斗。よろしくお願いします」
「どうも、月城リカです」



にこりと微笑みかけられたけれど、どうも素直に嬉しいとは思えない。
差し出された手を取って、その理由がわかった。



「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ。私のことはリカでいいから」
「わかりました。改めてリカさん、よろしくお願いします」



再びにこりと笑った青空の笑顔は完璧だ。
そんなことを思っていると、教室に教師が入って来て私達は入学式の会場へと案内された。



「ねえ青空、この学校ってあんなのが生徒会長で大丈夫なの?」
「どうでしょうね。でも、頼りがいがありそうじゃないですか」



生徒会長と名乗った先輩の演説に、新入生は静まり返っている。
なんだろう、入学早々にあんな恐怖政治宣言されちゃあね。
隣に座る青空に話しかければ、苦笑いを返された。



「琥太郎、この学校大丈夫なの?」
「ああ、不知火のことか。アイツはいつもああだから心配すんな」
「私、暑苦しい人嫌い」
「知ってるよ」



入学式もオリエンテーションも終わり、私は保健室に来て琥太郎と話をしていた。
今日から私は寮に移る。
荷物の整理を手伝ってもらうために、こうして彼の仕事が終わるのを待っているのだ。
お茶を啜っていると、保健室のドアが勢いよく開いた。



「入学式も無事に終わったなー!……って、リカ?」
「あ、直獅くんだ」
「な、何でお前がここに居るんだよ!」
「直獅、お前は馬鹿か。コイツも今日からここの生徒だよ」
「そんなこと俺聞いてない!」



そういえば言ってなかったな、と平然としている琥太郎を他所に、直獅くんは慌てている。
そんなに私がここにいるのがおかしいのか。



「というわけなんで、よろしくお願いしますよ陽日先生」
「あ、ああよろしく」



まだ混乱しているのか、戸惑いながら返事をすると直獅くんも勝手にお茶を淹れてきて私達の間に加わった。


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