痛い。
とてつもなく痛い。



「誉、何で私が付き合わされてるわけ?」
「だって一樹がリカちゃんも呼べって言ったから」



確かに、誉の立てるお茶は美味しい。
美味しいけど、何でわざわざ私を呼ぶのか。
そして、何で生徒会室の一角が茶室になっているのか。



「職権濫用……」
「何か言ったか?」
「別に」



当の会長様は誉のお茶が飲めて満足そう。
足を崩せばじんじんと痺れている。



「リカもお茶をやっていたんじゃないのかい?」
「そんなの昔の話。ってかなんで桜士郎までいんの?」
「喉が渇いたからだよ」



ひっひっといつもの変な笑い方をする桜士郎。
試験が終わったと思えば、もう明日からは夏休み。
両親のところに行かないかと誘われてはいるものの、そうなれば夏休みのほとんどをあちらで過ごすことになるだろう。
それはそれでいいんだろうけど、正直に言えば飛行機に何時間も乗りたくない。



「リカは夏休みに実家帰るのか?」
「いや、たぶん帰らない。遠いしね」
「あ、そっか……」
「お盆って寮閉鎖になる?」
「閉鎖にはならないが、職員さんも帰省するだろうからなあ」



そうなれば食事は自分で、か。
田舎にあるせいか、店まで行くのにも一苦労なのだ。
そうだ、琥太郎が居るじゃないか。
一応保健医だし、もしかしたら学校に居るかも。



「ま、たぶん俺も一樹も残ると思うけどね!」
「アンタ達も?」
「そ、だから心配しなくても大丈夫さ」



コイツ等が残るとなると、それはそれで大変そうなんだけど。
そんな言葉を飲み込んで、明日からの長い夏休みに何をしようかをと考えを巡らせた。








「ねえリカ、何で君が此処にいるのかな?」
「細かいことは気にしない!試験終わったら遊んでくれるって言ったじゃん」
「それはそうだけどさ……」



此処は郁ちゃんが暮らすマンション。
そろそろ大学の試験も終わる頃だろうと思って勝手にやって来た。
渋々ながらも中に入れてくれる郁ちゃんはやっぱり優しいと思う。
その時、玄関のインターホンが鳴った。



「リカ出てよ」
「何で私?」
「いいからさ。そのほうが早く終わる」



言われてドアを開けると、そこには綺麗な女の人。
もしかしなくても郁ちゃんの彼女だ。
タイミングの悪い時に来ちゃったな。



「貴女……誰?」
「あ、えーっと私は郁ちゃんの幼馴染で……」
「この子、僕の大切な子なんだ」



郁ちゃんの長い手が私の身体を後ろから包み込んだ。
目の前の女性は目を大きく見開いているけれど、それ以上に驚いているのは私で。



「悪いけど、帰ってくれない?」
「嘘でしょ!?」
「嘘じゃないよ。帰ってって言ったのが聞こえなかったの?」



唇をきゅっと結ぶと、その女性は目にうっすらと涙を浮かべながら走って行った。
相変わらずだなあ。



「で、いつまでそうしてるつもり?」
「うーん、ずっと?」



郁ちゃんを無理矢理引き剥がすと、溜息を吐いた。
このままじゃいつか女に刺されるぞ、マジで。



「郁ちゃんが何しようが勝手だけどさ、私を巻き込まないでよね。まだ死にたくないし」
「大丈夫、リカは死にやしないさ」
「どこに根拠があるんだか……」



せっかく来たんだし街でも案内するよという郁ちゃんの誘いに甘えて、その日一日付き合ってもらった。
郁ちゃんって普通に優しくていい人なんだけどな。
私と同じでどこか歪んでるからなのかもしれない、彼と居て心地いいと思えるのは。


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