「なんかさあ、こうじめじめしてると気分も沈んで来るよねー」
「お前にも気分が沈むことなんてあるんだな」



失礼な。
椅子に座っている琥太郎の背中を蹴り飛ばした。
仮にも女なんだからなんて台詞が聞こえてきた気がするけれど、何も聞こえなかったことにした。
生憎私のこの歪んだ性格は貴方譲りですから。
そう言ってやろうかと思った瞬間に保健室の扉が開いた。
入って来たのは俺様生徒会長で。



「リカ!ちょっと来い!」
「ちょっと何ですか!」
「いいから来い」



理由もわからずに引きずられて保健室から出る。
会長は私の腕を掴んでどこかに向かっている。
やっと手を離したかと思えば屋上庭園で、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべている桜士郎がそこに居た。



「ちょっと、何なんですか?」
「俺が一樹に頼んだんだ、リカを一分以内に連れて来ないと恥ずかしい写真をばらまくって脅してね!」
「これでいいだろ、ほら」



まるでモノを扱うように桜士郎のほうへと放り出された私。
桜士郎の顔を見れば良くないことを考えているのは明らかで、私は思わず距離をとった。



「そんなに警戒しなくてもいいんだよ。リカの写真を撮らせてもらうだけなんだからさ」
「写真?」
「何でも、今度の新聞の特集にするんだと。協力してやれよ、生徒会長命令だ」



それならそうと言ってくれればよかったのに。
まあ、言ってもらったところで了承はしなかったけど。



「そういうわけだからさ、ちょっとポーズ取ってよ!」
「はあ?」
「何ならこの生徒会長様とツーショットってのもいいぜ」
「それはお断りします」



何が楽しくて会長と二人で新聞に載らなきゃならんのだ。
抵抗してはみたものの、解放される様子はなくて仕方なく写真を撮られた。
私は細々と学校生活を送りたかったんだけど。



「なあ、リカって桜士郎に敬語使わないよな?」
「はい。一応同じ歳ですし」
「じゃあ俺にも使わなくていいんじゃねえの?」



いやいや。
桜士郎は学校に入る前から知っていたから、今更敬語使うのも変だと思ってそうしてるだけだ。
さすがに一年が会長にタメ口はマズいだろ。



「会長は会長ですからねえ……」
「その会長ってのも気に食わねえ!俺の名前は一樹だ」
「じゃあ、一樹会長?」
「一樹でいい。俺が認めてやる」



何でこの人はこうも上から目線なんだろう。
これだけ言うんだったら、まあいいか。



「じゃあ一樹で」
「何なら一樹様でもいいぞ!」
「それは絶対に嫌」
「一樹フラれてやんの!」



ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた二人を放っておいて、私は屋上を後にした。
後日、新聞にはしっかりと私と一樹の写真が載っていた。
ご丁寧に“生徒会長の熱愛発覚!?”なんて見出し付きで。
……桜士郎の奴め。


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