一体何なんだ、この状況は。
目の前であからさまに不機嫌な表情をしている男。
何とも気まずい。



「えっと……哉太だっけ?いい加減にしなよ」
「煩え、お前に言われたくない」
「お前じゃなくてリカ、月城リカ」



どうしてこの状況が作られたのか。
事の始まりは一時間ほど前に遡る。
授業が終わって暇つぶしに屋上庭園に行ったのが間違いだった。



「あー、運悪いな」



屋上の扉を開けば目の前では喧嘩が繰り広げられていて。
隠れて一部始終を見ていた私の前でこの哉太が突然苦しみ出したというわけだ。



「今保健室に連れて行くから」
「いい」
「何言ってんの、アンタ病気でしょ」
「何でそのことを……とにかく、保健室には行きたくねえんだ!」



彼の喧嘩相手は私の姿を見るなり去って行った。
そして残された彼は未だに苦しんでいる。
ただの怪我なら放っておいてもいいんだけど、残念ながらそうじゃないらしい。
それでもかたくなに保健室に行くことを拒むので、仕方なくこうして私の部屋まで運んだというわけだ。
ここなら琥太郎の部屋にも近いし、何かあっても対処できるはず。



「月子の言ってた幼馴染でしょ?アンタ」
「ああ」
「今頃心配してんじゃないの?」
「知らねえ」



とりあえず温かい飲み物を出してはみたけれど、彼は今すぐにでも部屋を出て行きたそうで。
そんな青白い顔をしたまま放すわけにはいかない。



「幼馴染には心配かけたくない、ねえ……」
「お前……」
「お前じゃないって何度言ったらわかんの?」
「……悪い。で、その……リカは何で知ってんだよ」
「何でだろうね。しいて言うなら“見えた”から?」



何言ってんだといったような顔で哉太が私を見る。
それでもすぐに意味を理解したらしく、顔を歪めた。



「心配しなくても普段は使わないよ。さっきの哉太の様子は尋常じゃないと思ったからさ」
「でもお前……リカは確か神話科だったよな?」
「月子から聞いてんじゃん。そ、私は神話科。別に今更力の使い方教わらなくてもいいしね」
「ふうん」



納得したのかしてないのか、彼の表情は固いままだ。
しばらく話をしていると、顔色も幾分か良くなってきた。
これならもう大丈夫だろう。



「何かあったら言って。星月先生とは仲良いし、嫌だったら月子には言わないでおくから」
「悪いな」



男子寮でと戻る彼を見送って再び部屋に戻ろうとすると、ちょうど仕事を終えて帰って来た琥太郎に出くわした。
私が入学するまでは別のところに住んでいたけれど、私が入学すると同時に彼も職員寮に入ったのだ。



「七海どうかしたのか?」
「ちょっと発作が起きたみたい。顔色良くなったみたいだから帰したけど良かった?」
「ああ。治まったんならとりあえずは大丈夫だろ」



夕食を取るという琥太郎について私も食堂へと向かった。
琥太郎について行くと奢ってもらえるからラッキーなのだ。



「リカ、ちょっとは警戒心持てよ」
「警戒心?」
「七海を部屋に入れたんだろうが」
「ああ、哉太なんか私から見れば子供だって。大丈夫」
「ったく……俺から見ればお前も十分子供だよ」



なんだかんだで私のことを心配してくれている。
私が日本に戻ると決まった時も、琥太郎は文句一つ言うことなく私を引き取ってくれた。
二年間ほとんど遊び呆けていた私を見放さないでくれたのも彼だ。
まるで本当の兄みたいに。


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