だから、怖いんだ



死ぬのは怖くないと思っていた。
それなのに、僕は今こんなにも生きたいと思っている。



『沖田さん!』



彼女が必死に僕の名前を呼んでいる。
昨日はあんなにも調子がよかったのに、今日はこんなにも苦しい。
僕は病人なんだって改めて気付かされた。



「大丈夫……寝てれば良くなるから……」



何日かに一回襲ってくる痛み。
最近は間隔が短くなっている気がする。
それはきっと、死が目前に迫っているということ。



『今お薬もって来ますから!』
「いいんだ……少し傍に居てくれないかな……」
『でも……』



立ち上がろうとする彼女の着物の裾を掴んだ。
片手で数えられるほどの日数しか傍にいない彼女だけど、これだけはわかる。
彼女は僕の願いを聞いてくれる。
今ここで僕が死にたくないと言ったら、彼女は願いを叶えてくれるだろうか。



「いいから、ね……」
『わかりました。でも落ち着いたら薬飲んで下さいね』



今にも泣きそうな表情の彼女が僕の手を両手で包んだ。
人間の手ってこんなにも温かいんだ。
今まで僕が命を奪ってきた人達の手も、こんなにも温かかったんだろうか。



「夜ちゃんの手、温かいね」
『沖田さんの手も温かいですよ』
「僕の手は、汚れてるから……」



僕はこの手でたくさんの人の命を奪ってきた。
それも全て近藤さんのため。
新選組のため。
後悔はしていない。



『そんなことないですよ。私は好きですよ』



泣きそうな顔で笑う彼女の顔は綺麗だと思った。
取り立てて美人というわけではないけれど、どこか安心する。
好きだという一言に、今度は僕が泣きそうになった。



「僕も好きだよ」



夜ちゃんの手が、と付け加えた。
そうしないときっと僕は後悔するから。
死にゆく人に愛を告げられても、遺される人は悲しむだけだ。
夜ちゃんの悲しむ顔は見たくない。



『一言余計です』
「だって本当のことだしね」



顔を赤らめる彼女に、少しだけ期待した。
もし彼女が僕と同じ気持ちだったなら。
僕は彼女を悲しませることしかできない。
それでも嬉しかった。



「ちょっと眠ってもいいかな」
『眠るまで此処に居ますね』



瞼を閉じれば、浮かんできたのは彼女の笑顔だった。
握られた手から伝わる温かさが僕を安心させてくれる。
こんな温かさにもっと早く気づけていたなら、僕の人生も少しは違うものになっていたんだろうか。



『沖田さん、好きです』



聞こえるか聞こえないかというほどの小さな声だったけれど、彼女は確かにそう言った。
僕はきっと、この温かさを知っていたとしても同じ道を歩んだと思う。
剣に生きる道。
近藤さんのために生きる道。
今更何を思ったって、沖田総司というのはそういう人なんだ。

死ぬのが怖くなったのは、きっと彼女に出会ったから。
与えられた安心と引き換えに、僕はこんなにも苦しい感情を覚えた。


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