おはようの一言



朝目覚めると、体中が痛かった。
目を開けるとどうやらソファで眠ってしまったらしい。
そして、隣に暖かさを感じて視線を向ければ死神の市丸さんの寝顔があった。



「ん……おはよ」
『おはようございます……何してんですか』
「寝てしもうたみたいやね、堪忍な」
『私は別に構わないですけど、市丸さんは向こうに戻らなくていいんですか?』



彼は壁に掛けてある時計に目をやると、再び瞼を閉じた。
昨日の夜、その前日に出会った自称死神の市丸さんが突然尋ねてきた。
私に会いたかったからなんてわけのわからないことを言ってたけど、本当のところはよくわからない。
ただ一つ確かなのは、彼が人間じゃないということ。



『何か朝ごはん作りますけど、嫌いなものありますか?』
「んー、干し芋……」
『干し芋なんて使いませんから』



まだ半分夢の中なのか、市丸さんはだるそうに返事をしてソファに身を預けた。
適当な朝食を用意して彼を起こす。



『市丸さん、できましたよ』
「おおきに。美味そうやなあ」
『簡単なものですけど、どうぞ』



トーストをほおばる彼を見ていると、人間なんじゃないかという錯覚に陥る。
昨日の話では、彼のいる世界にもこちらと同じようにお店があってそれぞれのコミュニティがあるそう。
彼等死神の所属する組織はいわば会社のようなものだ、と。
私達の世界と同じように上司が居て部下がいて、やることは違えど案外似ているものなんだなと思った。



「ごちそうさん。美味かったわ」
『いいえ、こんなものでよければいつでも』



綺麗にたいらげた市丸さんは再び時計を見る。
そろそろ向こうに戻らないといけないのだろうか。



「そろそろ行かなイヅルに怒られるなあ」
『イヅルって副隊長さん?』
「せや、ボクの副官」



昨日少し話してくれた人だ。
気弱そうなのに怒ると怖いらしい。
それでもそんな副官のことを存外気に入っていると彼は言った。



「ほな、そろそろ行くな。また来るわ」
『今度は干し芋用意しておきますよ』
「それは勘弁してや。用意してくれるんなら酒か干し柿がええわ」



初めて会った日と同じように彼は刀を抜き、門を開いた。
あの先に彼の世界があるんだと思うと、少しだけ興味が湧いた。



『市丸さん、行ってらっしゃい』
「行ってくるわ」



なんだかおかしなやり取りだとは思ったけれど、これから仕事に行くのならそれで構わないと思った。
彼が去った後、最初にもらったお守りをポケットから取り出した。
何故だろう、これを持っていると少しだけ安心する。



『また会えたらいいな』



ぽつりと呟いてお守りを握りしめれば、彼の声が聞こえたような気がした。


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