最近は調子がいい。 庭に出て刀を振っていると、聞こえるはずのない声が聞こえた。 『総司』 「玲ちゃん……」 会いたくなかったと言えば嘘になる。 でも、どんな顔をして会えばいいというんだ。 僕は玲ちゃんを裏切ってしまった。 僕は羅刹になったんだ。 「どうしたの?そんな格好して」 『トシさんに渡された』 「土方さんが?もしかして……」 『後、残念なお知らせ。私はもう新選組の隊士じゃない。総司もね』 目の前が真っ暗になった気がした。 目の前の女物の着物を来た玲ちゃんはとても綺麗だ。 けれども、それが目に入らないくらいに。 『はい、これこの着物に挟んであった』 差し出されたのは一通の文。 恐らく土方さんが書いたんだろう。 文字を見ただけで誰が書いたかわかってしまうなんて、なんだか悔しかった。 『ごめん、中身読んじゃった』 目を通すと、そこには土方の気持ちが書いてあった。 これを玲ちゃんが読んだなんて、土方さんってば可哀そう。 最後の一文を読んで、思わず泣きそうになった。 「幸せ、なんて……」 俺はお前達の幸せを願っている。 最後にそう締めくくられていた。 そんなこと、もう二度と会えないみたいじゃないか。 『総司……』 文を握りしめた。 土方さんはいつも勝手だ。 勝手に僕の元に玲ちゃんを残して、自分だけ近藤さんの為に、新選組の為に戦おうなんて。 「玲ちゃん、僕羅刹になったんだ」 『知ってる。見たらわかるよ』 「でも、労咳は治ってない」 『うん』 そろそろ僕も独り立ちしないといけないのかもしれない。 一人の男として、今の僕にできるたった一つのこと。 「もしかしたら残りの寿命なんてもうほとんどないのかもしれない。それでも、僕は玲ちゃんの傍に居たい。僕の傍にいてくれないかな」 玲ちゃんは笑った。 その笑顔が好きなんだ。 『私も総司の傍に居たい』 抱きしめた身体は細くて、今までこんな身体で戦っていたのかと驚いた。 もう彼女に刀は握らせない。 今まで十分頑張ったんだ、慣れないこの世界で、鬼であるという事実を抱えて。 だからこれからは僕が護る。 今まで近藤さんの為に使ってきたこの手を、今度はたった一人のために使おう。 → back |