目を開けると、そこにあったのは見知らぬ天井でした。
…なんて、某アニメみたいなことを思ってみる。
まだ覚醒しきれていない頭を無理矢理に働かせれば、昨日のことが鮮明に思い出される。



『トリップなんて笑えねえよ、全く…』

「ねえねえ、“とりっぷ”って何?」



独り言のつもりで吐いた言葉に返答されて振り向くと、そこにはにこにこと笑顔を向ける沖田総司の姿があった。



『…聞いてたんですか?』

「聞いたんじゃないよ、聞こえたんだよ」



で、何?と再度問われて、私みたいに異世界に飛ばされることですとだけ答えておいた。

それにしても、なんて物騒な世界にきてしまったんだろう。
ただゲームをしているだけだとこんなイケメンだらけでそれこそ逆ハーレムな状況なんだろうけど、如何せん皆の腰には刀。
いつでも斬り殺せるぞと言われているようでなんだか怖い。
この状況で逃げ出そうとか考えていたあのヒロインは、私なんかよりよっぽど肝が据わっているんだろう。



「玲ちゃんって面白いよね」



クスクスと笑いながら、私を恐らく昨日のあの広間へ引っ張っていっているんであろう沖田さんは言葉を紡ぐ。
普段の私ならばイケメンと二人きりなんてなんておいしい状況とでも思うんだろうが、生憎今のこの状況でそんなことを思っていられるほど私は楽観的じゃない。
できることなら、目が覚めたら全部夢でしたっていう夢オチであってほしかった。



『面白くもなんともない、ただのか弱い女ですよ』

「そうは見えないけどなあー」



そうこうしているうちに、昨日と同じ広間に私は入れられた。
そこに座っているのは昨日と同じメンバー。
果たして私は死ぬのか生きるのか。



「昨日はよく眠れたかい?」



にこにこと笑顔で聞いてくる近藤さんは、この世界で唯一の癒しかもしれない。
この中で唯一私に殺気と呼ばれるものを向けていない気がする。



『はい、おかげさまで。でも、なにしろ縄で縛られたまま眠るのは初めてなものですから、体中が痛くて…』

「そうか…女子の君を拘束したままでいるのは心が痛んだんだがな、すまない」



そう言って、近藤さんは頭を下げた。



『とんでもありません、得体の知れない私を警戒するのは当然のことですから』



顔を上げた近藤さんはやっぱり笑顔で。
新選組という歴史に名の残る集団を率いているだけあって、人の良さがにじみ出ていた。



「それでだな、お前の処遇についてなんだが…」



近藤さんの隣に座る土方さんが口を開いた。
神様、仏様、土方様、私はそんな気持ちで次の言葉を待った。



「とりあえずはお前を此処に置いてやる」

『本当ですか!?』



本当に、土方さんが神に見えた。
決して言いすぎではないと思う。



「ああ。監視も兼ねてだがな」

『ありがとうございます!』



どうやら、私はこのイケメンパラダイスにしばしの間留まることを許されたようだ。


back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -