目の前の総司は酷く悲しそうだった。
まるで置き去りにされた子供だ。



「ねえ、皆は今どこに居るの?」
『甲府に行ってる。俺は残れって土方さんに言われたよ』



彼等が今から経験するのは連続する負け戦。
それを知っているけれども、そんなことは言えない。
目の前に居る総司にも、だ。



「土方さんも心配性だなあ」
『そんだけ総司のことを思ってんだよ』
「違うよ、玲ちゃんのこと」
『俺?』



総司は笑った。
今にも泣きそうな顔で笑われても、反応に困るよ。



「ねえ玲ちゃん、そろそろ女の子に戻ったら?」
『嫌だよ。俺は新選組の隊士だ』
「いいじゃない、僕のお願い」
『嫌』



女に戻るということ、それはすなわち新選組の隊士でなくなるということだ。
私はまだ、皆と戦いたい。
総司の傍にも居たいけれど、新選組でいたい。
これは我儘なんだろうか。



「じゃあさ、もし……もし僕がもう長くないってわかった時にはさ、女の子に戻ってよ」
『そんな日が来ればね』



顔の筋肉を総動員して笑顔を作った。
総司が気付いていなければいいと思う。
でもきっと、彼は気付いている。
自分がもう長くないこと。
その時は目前に迫っているということ。



「この前さ、近藤さんが来てくれたんだ」
『此処に?』
「うん。あの人、いつもみたいに笑ってた」
『だって近藤さんだからね』



近藤さんは太陽のような人だ。
いつも朗らかに笑っていて、それだけで皆を安心させてくれる。
この世界に来てすぐの頃、何度彼の笑顔に癒されたか。



「僕さ、泣いちゃったんだ。まるで子供みたいに」



なんだか想像ができなかった。
私の知る総司はいつも嫌味なことを言ってばかりで、周りをからかって楽しんでいるんだ。
そんな彼が子供みたいに泣くなんて。



「どうしてだかわからないけど、もう近藤さんに会えない気がしたんだ。変だよね、僕が生きてさえすればまた会えるかもしれないのに」



何も言えなかった。
私の記憶が正しければ、近藤さんが捕えられるのは甲府から帰って来てすぐのこと。
もしかしたらもう、私も総司も近藤さんには会えないかもしれない。



「そしたらさ、土方さんまで涙浮かべてんの。まさに鬼の目にも涙だよね」



そりゃそうだろ。
あんなに憎まれ口ばっかり叩いていた総司が目の前で泣いてたんだ。
私だってきっとその場に居たら泣いてた。
それだけ総司は土方さんにとっても大事な仲間なんだ。



『そんなこと言ってたら土方さんに殴られるよ』
「大丈夫、いくら土方さんでもこんな僕に怒る気になんてなれないよ」



何だろう、最近の総司はいつもこうだ。
自分のことを卑下したり、もうすぐ死ぬようなことを言ったり。
気付けば私の掌は総司の頬を打っていた。



『いい加減にしろよ!総司がそんなんだからトシさんも近藤さんも皆アンタの心配して……』
「玲ちゃん……」
『死ぬのが怖いんならそう言えばいいじゃない、生きたいんだったら生きたいって言ってよ!私だって……』



それ以上の言葉は続かなかった。
みっともないくらいにボロボロと涙を零しながら、その場に崩れ落ちた。
最初からわかってたことなのに。
いざ、総司が居なくなるかもしれないって思ったらどうしようもなく悲しくなった。


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