江戸に入って数日、私は漸く新選組の皆のところに行った。 正直に言うと、少し怖かった。 千鶴と平助とはぐれてしまって、もしかしたら逃げたんじゃないかと思われてるんじゃないかとか。 『皆、久しぶり……』 「玲!無事だったんだな!」 「馬鹿か平助。玲がそう簡単に死ぬわけねえだろ」 「ま、無事でよかったよな」 皆が口々に“無事でよかった”と口にした。 私の心配は杞憂に終わった。 そして、奥から顔を出したのは千鶴。 皆が騒いでいたから何事かと思ったんじゃないだろうか。 「玲さん……」 『久しぶり、千鶴。心配かけてごめんな』 千鶴はその場に座り込んでしまった。 目には一杯の涙。 「もしかしたら死んじゃったんじゃないかと思って……私と平助くんがはぐれてしまったから……」 『泣くなって、この通り元気だしさ。ほら』 手を差し出せば、千鶴は躊躇いがちに手を重ねてきた。 その様子がなんだか可愛くて、私は思わず千鶴を抱きしめた。 『ごめんな、千鶴』 「玲さん……」 そっと身体を離せば千鶴の顔は真っ赤。 周りの皆は複雑そうな顔をしている。 きっと皆知っているんだろう。 『あのさ、千鶴。俺言わなきゃいけないことがあるんだ』 「なんですか……?」 『もしかしたら千鶴が気づいていないんじゃないかと思って。俺、こう見えても一応女なんだよね』 「え……」 千鶴は大きい目をさらに見開いて立ちつくしてしまった。 その様子を見て皆笑っている。 この場に総司が居たら、笑い転げていたと思う。 『いやーよくよく考えたら千鶴に言ってなかったなって。とっくに気付いてるもんだと思ってさ』 「すみません、全然気づいていませんでした」 「玲は十分男で通るもんな!」 『平助煩い』 まだ戸惑っている千鶴を他所に、皆で笑い続けた。 もしかしたらこうやって皆で笑えるのももう最後かもしれない。 事実、この場に総司は居ないし、土方さんも近藤さんも仕事で居ない。 「もっと早く言って下さいよ……」 『ごめん、てっきり気付いてるもんだと思ってさ』 「あんたの男装はある意味完璧だからな」 『一くんまでやめてくれる?』 慶応四年、二月の初め。 確かに新選組の皆は笑いあっていたんだ。 → back |