慶応三年、十一月の半ば。
寒さも厳しくなってきた頃、新選組の屯所に思いもよらない知らせが届いた。



「坂本さんが殺された!?」



一同が声をあげるのも無理はない。
あの坂本竜馬が何者かに殺されたというのだ。
中岡慎太郎と共に。
そしてあろうことか、その現場に左之さんの鞘が落ちていたというのだ。
私達新選組はそんな計画を立てたこともないし、左之さんはその日確かに屯所に居た。
記憶の糸を辿れば、確か伊東さんがそんなことを言ったという説があったはずだと思い出した。
その時だった。
あの人が広間に現れたのは。



「失礼します」
「斎藤!?」
「一くん!?」



斎藤一。
その人が新選組に戻って来たのだ。
恐ろしい知らせを持って。



「斎藤は伊東派の動向を探らせるためにあっちに行ってもらった。戻って来たってことは何かあったんだな?」
「はい。坂本竜馬の一件は、伊東さんが証言したもののようです」
「そうか……」



苦い顔をする土方さん。
表向きは穏便に分裂しただけに、こうもあからさまな態度を取られると対処に困るのだろう。



「あと……彼らは局長の暗殺を企てています」
「何だって!?」



局長である近藤さんを失えば、新選組は駄目になるとでも思っているのだろうか。
近藤さんをそう易々と死なせるわけがないのに。



「早急に手を打たねえとまずいな。穏便に済ませたいが仕方がねえ、伊東さんには消えてもらう」



土方さんの言葉に一同の表情が強張る。
伊東派を始末するということ、それは同時に平助をも巻き込むということ。
彼はもう、御陵衛士なのだから。

重苦しい空気の中、早速作戦が立てられた。
酒の席に呼んだ伊東さんを、その帰りに討つ。
平助はできるだけ説得してみる、と。



「あの……」



それまで隅に控えていた千鶴が声を上げた。
一斉に向けられた視線に躊躇しながらも、千鶴は言葉を続けた。



「私に平助君の説得をさせてもらえませんか?」



遠慮がちではあったけれど、しっかりと意志を持った声で千鶴は言った。
彼女を庇って平助は傷を負うけれど、このことに私は口を出してはいけない、そう思った。



「だが、平助だけじゃねえんだぞ」
『いいじゃないですか、左之さんと新八さんも居るなら安心ですよ。それに、平助は千鶴を傷つけるようなことはしないと思いますよ』



返事を渋る土方さんに向けた言葉に、彼は首を縦に振った。
ただし、無理はするんじゃねえと一言言って。



『良かったじゃん、平助も千鶴に言われたら案外あっさり戻ってくるんじゃないの?』
「そうだといいんですけど……」
「気にすんな、俺らもなるべくなら平助に手は出したくねえ」



左之さんと新八さんの言葉に安心したのか、千鶴の顔は少し綻んだ。
一方の私はというと、あろうことか待機。
総司を見張っていろと土方さんに言われたのだ。
近藤さんが狙われていると聞いて一番憤っていたのが彼。
しかし、今の彼には以前にはない危うさがあった。
一人で突っ走ってしまいそうな。
土方さんはそれに気付いていたからこそ、私に総司の監視を命じたのだ。


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