屯所を移転して三月ほど経った。
今日は隊士が広間に集められている。
その理由はというと、将軍上洛の際の二条城の警備を新選組が仰せつかったとか何とか。



『千鶴も行くの?』
「私は……」
「行けばいいんじゃねえの?俺の代わりに働いてきてくれよ」



平助と千鶴と三人で小声で話していたら、土方さんに頭を小突かれた。
体調不良、と仮病を使って今回の警備に参加しないと言った平助。
体調が思わしくないため参加できない総司。



「私は……参加させてほしいです」



そして、あくまでも伝令ではあるが参加することに決めた千鶴。
それぞれの運命が少しずつ動き始めていた。



「まあ、将軍様に首取ろうなんてアホなこと考える奴なんてそう居ねえからよ、気軽にいけって」
『まあ、将軍は安全だろうけど、な……』



そして当日、緊張からか顔がこわばっている千鶴に新八さんは肩の力を抜けと諭す。
今日、千鶴は風間達鬼にこう言われるのだ、同胞だと。



『安心しなよ。何かあっても皆が居るしさ』
「玲さん、ありがとうございます」



夜になり、辺りは静まりかえっていた。
新八さんの言う通り、特に問題はなかった。
しかし、ここからはそうはいかない。
確か、千鶴が一人で居る時に……そう思った瞬間、何か大きな力を感じた。
間違いない、鬼の気配だ。



「貴様は我が同胞、大人しくこちらに来るがよい」
『千景、待ちなよ』



その場に駆けつければ、千景を初めとする三人の鬼が千鶴の前にいた。
私の姿を目にした千景は、一つ溜息を吐いて私に顔を向けた。



「玲、俺の敵に回るというのか」
『敵とか味方じゃないよ、アンタのところに行くかどうかを決めるのは千鶴だって言ってんの』
「ふん、偉そうに」
『アンタこそ偉そうに何なんだよ、そんなんじゃ千鶴に振られちゃうよ』



だんだんと熱を帯びてきた私達の言い争いを止めたのは、他でもない、土方さんの声だった。



「おい、玲そんな奴となに言い争ってんだ。やるってんなら俺らに任せとけ」



千鶴を護るようにいつの間にか左之さん達も立っていた。
ここまで来れば私の出る幕なんてない、そう思って千景を一睨みした後で私は下がった。
背中に回した千鶴を見れば、困惑と恐怖から顔がこわばっている。
そんな彼女を見ているのが辛くて、そっと頭に手を置いた。



『千鶴、心配するな。鬼だろうと何だろうとあの人達は見捨てたりしない』
「ありがとうございます……」



消え入りそうな声だったけれど、確かに彼女の声は私に届いていた。


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