山南さんが変若水を飲んですぐ、千鶴が部屋に入ってきた。



『千鶴!どうしてここに……』
「す、すみません、お二人の姿を見かけて……」



山南さんの苦しむ様子を見てうろたえる千鶴を部屋から出そうとすると、背後から山南さんの手が伸びてきた。
首に手を掛けられて上手く息ができない。
せめて彼女だけでもと千鶴を部屋の外に突き飛ばすと、入れ違いに総司が姿を現した。



「玲ちゃん!?」
「沖田くん……どうやら私には幸せを掴むことができなかったようです……」



苦しげに言う山南さんは、まだ完全に理性を失ってはいないようだ。
そして、騒ぎを聞きつけた土方さんもその場にやってきた。



「玲!」
「ひ、土方くん…早く私を……」



山南さんの言葉に答えるように、土方さんは刀を抜いた。
ドサッという山南さんの倒れる音とともに、私は解放された。



「玲、何があったのか説明しろ。千鶴も来い」



緊急に幹部が招集されて、私は山南さんが変若水を飲んだことを伝えた。
そして、千鶴にも変若水そして羅刹のことを説明せざるを得ない状況になってしまった。



『皆、ごめん。私が止めていれば……』
「しかたねえだろ。お前があそこで止めてたとしても、あの人は結局変若水を飲んだと思うぜ。それに、あの人をそこまで追いつめていたことには俺にも責任がある」



土方さんが言っているのは、数日前の出来事のことだろう。
伊東さんから山南さんを庇うつもりが、かえって彼を傷つけることになってしまった。
でも、それを言うならそもそも彼が怪我をすることを知っていながら防げなかった私のせいで。



「飲んじまったもんは仕方ねえんだしよ、今は山南さんが無事でいてくれることを祈ろうぜ」



こんな時でも明るくふるまってくれる新八さんに感謝する。
大丈夫、山南さんはきっと乗り越えてくれるはずだ。
表向きには亡くなったことにされはするけど、私たちの中では彼は生きている。

意識を取り戻した山南さんが広間に現れたのは、翌日の朝のことだった。
顔色は良くなかったけれど、私たちは一安心したのだった。


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