平助が江戸から戻ってきた。
予想通りの知らせとともに。
それから一カ月後、伊東甲子太郎一派が新選組へとやってきた。



「ああー!アイツ気に食わねえ!」
『新八さん、煩い』
「お前もそう思わねえか?アイツ山南さんのこと馬鹿にしてるしよ、男に色目使うしよ」
「それは僻んでるだけだろうが。まあ、あの人に気に入られたところで別に嬉しくねえけどな」
『同感』



まだぎゃあぎゃあと騒いでいる新八さんの横で、左之さんと笑う。
伊東さんは容姿端麗で頭もキレる。
そんな彼が新選組に入ってきて、しかも参謀という重役に就いたことで新選組は少しずつ変化しつつある。



「近藤さんもさ、何であんな人を入れたんだろ。僕も気に入らないな」
『総司は近藤さんの取り巻きが増えたのが気に食わないだけでしょうが』
「あはっ、ばれた?」



そんな中、私は伊東さんに気に入られているのかやたらと話しかけられる。
いずれ敵になる人と仲良くするのには気が引けたけど、無下に扱うわけにもいかないので悩んでいる、そんな状況だ。



「玲ちゃんも伊東さんに気に入られてるよね」
『総司、それは言うな』
「いいんじゃない?女だってばれてるわけじゃないんだし」
『それが問題なんだって!』



私は知っている。
伊東さんに話しかけられて苦笑している私を、いつも影から覗いて笑っている総司を。
この男、剣術と人をからかうことに関してはもはや天才の域を超えていると思う。



「まあまあ落ち着けって。伊東さんは適当にあしらっとけ。そのうち土方さんが何とかしてくれんだろ」
「あの土方さんがそんなこと気にするとは思えないけどなあ」
「総司、俺が何だって?」



突然現れた土方さん。
一目見ればわかる、今の彼は相当機嫌が悪い。



「いや、土方さんの御顔は綺麗だなあと思ってたんですよ」
「煩え、俺は男だ」
「そんなの知ってますよ」
「それに、俺が好きなのは女だ」



土方さんの様子がおかしい。
機嫌が悪いのはいつものことだけど、それ以上に今日は虫の居所が悪いらしい。
原因はきっと伊東さんだろう。
土方さんって綺麗だし。
でもそんなこと口にしたら怒りの矛先が私に向いちゃうから、言わない。


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