早いもので、私がこの世界に戻ってきて二度目の冬を迎えた。
特に変わったことはなく……とは言っても山南さんは相変わらずだし、街に出ると千景によく遭うようになった。



『で、総司は何してんの?』

「見てわからない?休憩だけど」



いつもの調子で答えた総司は茶店で呑気に団子を食べている。
今は巡察中のはずなんだけど。



『土方さんに怒られたいんだ、ふうん何なら私が告げ口してあげるよ』

「いいじゃないちょっとくらい。鬼の副長だって、普段忙しなく働いている可愛い部下が巡察の途中に少し休憩したところで怒ったりしないよ」

『そうか?あの土方さんなら巡察中に何やってんだって鬼の形相で追いかけてきそうだけど』



この光景を見た土方さんの様子が目に浮かぶ。
きっと、ひとしきり怒った後で溜息を吐いてこう言うんだ。
今回だけは多めに見てやる、と。



「それよりもさ、玲ちゃんは気づいてるんでしょ、僕の身体のこと。いや、知ってるって言ったほうが正しいのかな」

『何の話?』

「惚けなくたっていいよ。僕も自分でおかしいなとは思ってるんだ」



総司が言っているのは、きっと労咳のことだ。
まだ彼は正式な病名を知らない。
それでも、自分の身体に異変が起きていることには気づいているんだろう。



『知ってるって言ったらどうする?』

「どうもしないよ。ただ聞いてみたかっただけ」



そう発した彼の顔は少し暗かったように思えた。
労咳は静養すれば治らずともその進行を遅らせることができる。
それでも、彼にそんなことを言ったところで無駄だってことはわかっていた。



『別に、総司の好きなようにすればいいと思うよ』

「何わけのわかんないこと言ってるの?」

『気にしないで、ほら仕事』



そう言って座っている総司を立たせようとすると、口の中に団子を突っ込まれた。
吐きだすわけにもいかないので、もぐもぐと口を動かして飲み込んだ。
視線を下にずらせば、ニヤリと笑った総司の顔。



「これで玲ちゃんも同罪。告げ口できないね」

『馬鹿、最初から告げ口する気なんてないよ』



最後の一本を食べ終えた総司は席を立ち店の外に出た。



「ありがとう」



小さく呟かれた声は、私には届かなかった。


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