池田屋事件から約一カ月後、新選組は会津藩の命による長州征伐のため出動することになった。
これは後に禁門の変と呼ばれる出来事。



『暇ですねー』

「暇じゃねえよ、待機だ」



浪士組と言われる新選組は、桑名藩や会津本隊にたらい回しにされて漸く辿り着いたのがこの九条河原。
すっかり日は暮れて、辺りはしんと静まり返っている。



「千鶴、疲れたんなら今の内に休んどけ。ほら、膝貸してやっからよ」

「いえ、大丈夫です」

『左之さん、俺には?』

「てめえは石でも枕にしてろ」



笑いながら左之さんに言われてむっと口を尖らせてみるけれど、効果はないみたいだ。
まあ、膝を貸すと言われたところで素直に甘える気はないけれども。
皆が気を張り巡らせているのに、自分だけ休むなんてできない。
恐らく千鶴も同じ気持ちなんだろう。



『千鶴、肩くらいなら貸してあげるよ。何か起きた時に動けなかったら困るだろ』

「いえ、でも……」

『いいから。少しだけでも』



そう言って肩を叩けば、千鶴が遠慮がちに寄りかかってきた。
事が起こるのは夜明け頃。
それまでは少しでも体力を温存しないと。

そして漸く日が昇り始めた頃、朝焼けの空に銃声が鳴り響いた。



「お前ら、行くぞ!」



土方さんの一言で私たちは立ち上がる。
待機命令がどうとか言っている会津本隊に土方さんが喝を入れる。
急いで現場へ向かうも、既に薩摩と会津によって長州は追い返された後だった。



「よし、俺らは別れて仕事するか。斎藤は蛤御門の守備に、原田と美空は街に残党がいねえか見て来い。俺と永倉は天王山に行く。近藤さんは上層部にかけあってくれ。源さんは近藤さんを頼む」



次々と指示を飛ばしていく土方さんは、なんだか生き生きとしているように見えた。
千鶴はどこについて行くか聞かれ、土方さんと共に天王山へ向かうと答えた。
私は一くんとこの場に残り、守備にあたることになった。



『土方さんってやっぱり凄い人なんだね』



横にいる一くんに言えば、少しだけ嬉しそうな顔をした。



「そうだな、あの人は凄い人だ。だからこそ、新選組の隊士は命をかけてあの人の命に従うんだ」

『普段は口うるさい鬼副長なのにね』



おどけて見せると、一くんは眉間に皺を寄せた。
すると、向こうでがやがやと言い争っている声が聞こえた。
声のするほうへ向かうと、会津と薩摩が言い争いをしていた。
そして、薩摩側の先頭に出てきたのは天霧さんだった。



「何か用か」



すっと前にでた一くんは、刀を抜いて天霧さんに向けた。
しかし彼はそれに怯むことなく表情を崩さない。
そして、彼の視線は私に向けられた。



「なるほど、本当に新選組にいたのですね玲殿」

『千景から聞いたの?』

「はい。貴女が新選組の隊士として戻って来たと」



きっと、千景は天霧さんに私が言ったこと全てを話したのだろう。
一度異世界に行き、再び戻って来たと。



『そっか、それはいいとしてさ、今は引いてくれないかな?ここで揉め事を起こすのはそっちにとっても良くないだろ』

「それもそうですね。何より貴女に危害を加えることになってしまっては風間が黙ってはいないでしょう」



少しだけ微笑んだ天霧さんは、兵士たちを連れて去っていった。


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