山南さんは、怪我をしてからあまり姿を見せなくなった。
たまに見かけて話しかけると、以前と同じような優しい山南さんでほっとする。
それでも、時折見せる寂しそうな表情に気づかずにはいられなかった。



「なあ玲、お前は山南さんは変わったと思うか?」



土方さんの仕事を手伝っていると、ふいに土方さんが山南さんのことを聞いてきた。
変わったかと聞かれても、私は皆のように何年も一緒にいるわけではない。
此処に来てから山南さんに色々と良くしてもらったのは事実だけれど。



『少し……皆と距離を置いているようには感じますね。でも、山南さんは山南さんです』

「そうか」



剣が握れなくなろうと、山南さんが山南さんであることには変わりがない。
少しの間しか此処にいない私でも、新選組にとって彼が必要な人であることはわかる。
たとえ羅刹になろうとも、だ。
再び書類に目を通し始めた土方さんの心中は私にはわからない。



『トシさんこそ気を付けて下さいね』

「何にだ」

『身体、ですよ』



近藤さんが新選組の隊士にとっての父だというなら、土方さんは母だ。
新選組は土方さん無しでは回らない。
今までも、これからも。
だからこそ土方さんには無理をしてほしくない。
もし私の知る未来が変わって土方さんが病に伏せるようなことになれば、新選組はそこで終わりだと思う。



「お前に心配される筋合いねえよ」

『何言ってんですか。俺だって新選組の一員ですから』



斎藤みたいだな、とぽつりと漏らした土方さんは、筆を置いて胡坐をかいた。
さっき淹れてきたお茶を差し出せば、彼はそれを無言で受け取った。



「玲には感謝してる」



聞こえるか聞こえないかといったような声で言った土方さんは、お茶を啜った。
感謝してる。
たった一言だけど、私にとってはこの上なく嬉しい言葉だった。



『私のほうこそ感謝してますよ』

「そりゃ当然だろ」



笑いながら話す土方さんだけど、私は本当に土方さんに、新選組の皆に感謝してる。
異世界から来たという私を此処に置いてくれて、隊士にしてくれて、私に居場所を与えてくれて。



「お前は新選組の隊士だからな」



その言葉の明確な意味はわからないけど、きっと此処に居てもいいっていう意味なんだと思った。
柄にもなく優しい雰囲気の土方さんはなんだか別人のように見えた。
それっきり私達の間に会話はなくて、静かに夜は更けていった。


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