タタタタッ――



急がなきゃ…
バタンッと勢いよく襖を開ければ、部屋の主は顔を歪めてこちらを向いた。



「おい、部屋に入る時に声の一つもかけられねえのか?!」

『ごめんトシさん、それよりも山南さんと大阪に行くんだって?!』



それがどうしたと言わんばかりに、土方さんは頷いた。
大阪で山南さんは左腕を怪我する、そのことを伝えるために急いで巡察から帰って来たのだ。



『トシさん、山南さんが怪我しないように助けてあげて!』

「山南さんが?」

『左腕!左腕に気をつけて!』



絶対だからね、と念を押すと私は部屋を出た。
部屋に残された土方さんが、変な奴…と呟いていたのは知らない。
巡察を途中で抜けてきたため、帰って来た一くんに怒られるんだろうななんて思いながら、暇つぶしに千鶴の部屋の前に行く。
そこにはうたた寝をしている平助の姿があった。



『あーあ、トシさんに見られたら怒られるよ…』



よくこの寒い中外で寝れるな、と感心する。
このまま放っておいて風邪をひかれても困るので、舟を漕いでいる頭を突いてみた。



『平助ー起きろー』

「……」

『ったく…平助!てめえ何居眠りしてやがる!』



土方さんの口調を真似てみれば、ガバッと平助が顔を上げた。



「悪い!つい…って、なんだ玲か」

『なんだ玲かって失礼な。ったく、この寒い中居眠りしてんじゃないよ』

「仕方ねえじゃん、夜の巡察に行っててほとんど寝てねえんだからさ」



ふう、と溜息を吐くと千鶴の部屋を指さした。



『寝るんなら千鶴の部屋の中で寝なよ。平助に風邪ひかれたら、俺の仕事が増えるんだ』



私の仕事は各組長の補佐。
組長が動けなくなれば、当然私の仕事も増えるのだ。
入るよーと声をかけると、平助を千鶴の部屋の中に押し込んで私も部屋に入った。



「そういえば玲、今日は一くんと巡察じゃなかったのか?」

『ああ、土方さんに用事を思い出して先に帰って来た』

「一くんも玲には甘いよなー。俺がそんなことしたらただじゃ済まされないぜ」

『いや、きっと俺も…』



言葉を続けようとしたその時、背後に殺気を感じた。
恐る恐る振り返れば、無表情だがどこか怒っているような一くんの姿。



「玲…用事がある故先に戻ると聞いていたが?」

『は、一くん…』

「何故ここにいる?お前の用事とは、ここで戯れることなのか?」

『いや、用事ってのはもう終わって…』

「新選組の隊士たる者、仕事を放って雑談など言語道断だ。しかも、お前は俺ら組長の補佐という地位にあるのだ、少しは自覚を持って行動してもらわないと…」



長くなりそうな一くんの説教を食い止めるべく、ここは素直に謝るのが一番だと思い頭を下げる。



『わ、悪かったよ。今度から気をつけるからさ』

「俺に謝ってもらっても困る。だいたいお前は自覚が足りなさすぎるのだ。以前も注意しただろう?組長の補佐というのは…」



その時、その場の空気にそぐわない押し殺したような笑い声が聞こえた。
そちらを見ると、千鶴が必死に笑いを堪えていた。



「す、すみません!美空さんと斎藤さんって仲がいいんだなって思って…」

「千鶴ー、玲は今一くんに怒られてんだぜ?まあ、痴話げんかに見えないこともないけどさー」



そう言いながら、平助も笑いだす。
一くんはというと、怒る気も失せたのか呆れたような表情をしている。



「ち、痴話喧嘩だと?馬鹿馬鹿しい」



くるりと外を向くと、一くんはスタスタと行ってしまった。
その様子を見て、千鶴が心配そうな顔をする。



「あの…斎藤さんを怒らせてしまいましたか?」

『大丈夫、あれは照れてるだけだから。耳まで真っ赤になってたし』



ケラケラと笑えば、千鶴もまた笑顔になった。
それはまるで嵐の前の静けさのようで、一時の楽しい時間だった。




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