そんなこんなで季節はすっかり冬になっていた。
京の冬は寒い、というのは本当のようで、エアコンはおろかストーブもないこの世界の冬を無事に乗り切れるのか、私は不安でしょうがなかった。



『さ、寒い…』



何枚も羽織りを羽織って、縁側に丸まって庭を眺めている現在。
降り積もった雪が一層寒さを引き立てていた。



「お前、何やってんだ」

『あ、トシさん。見ての通り、寒さに耐えながら雪を眺めてるんですよ』



阿呆か…と溜息を吐く彼を無視して、私は再び雪景色に目を向ける。
向こうの世界に居た時はこんなに雪が積もったところを見る機会はそうなかったから、なんだか新鮮だ。



「お前の元居たところでは雪が降らなかったのか?」

『降らないわけでもなかったんですけど、こんなに綺麗に積もることはありませんでしたよ』



気が付けば土方さんは隣に腰掛けて、寒さなんてなんのそのといった顔でこちらを見ていた。
この時代の人は寒さに強いんだろうか。



「少しは此処にも慣れてきたみてえだな」

『慣れたっていうんですかね…少なくとも、今は楽しいですよ』



彼なりに心配してくれていたらしい。
無理もない、最初の頃は衣服に日用品に引いては言葉まで、何もかもがわからないことだらけだったのだ。
この世界にきて三月が経った頃だった。

最近気が付いたこと、それはこの世界に来て身体能力が驚くほど上がっているということ。
初日に羅刹に追いかけられた時もそうだし、初めて総司と手合わせをした時も、なんだか自分の身体じゃないみたいに軽かった。



『…で、何で今俺はこんなところにいるのかな、平助くん?』



見下ろす先には申し訳なさそうな顔をする平助。
事の始まりはものすごく単純で、洗濯物を干していた平助の不注意で手ぬぐいが飛ばされて、それが運悪く高い木の枝に引っかかってしまった。
そこにこれまた運悪く私が通りかかり、彼よりも幾分か小柄な私が取りに行かされたというわけだ。



「悪い、今度何か奢るからさ!」

『高い酒奢らせてやるから覚悟しとけよ!』



木のぼりなんて生まれて初めてで、怖いなんてもんじゃない。
それでも漸く目的のものを手にすると、私はそれを下に居る平助めがけて投げた。
…と同時に、強い風が吹いた。



『…っ!』



落ちる、そう思った時には既に遅くて、私は木の上から真っ逆さまに落ちていく…はずだった。



『痛く…ない…?』

「玲すげえじゃん!」



なぜか平助に賞賛の声をかけられ、自分が今何をしたのかを思い返してみた。


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