やがて、新選組は甲陽鎮撫隊と名を改めて幕臣となった。
近藤さんは嬉しそうにしていたけれど、最早幕府に権力などないに等しい。
恐らく新選組のような血気盛んな輩を江戸に置いておくわけにはいかないと思ったのだろう、私達は甲府へと向かわされた。



「玲、話がある」



出立の前日、私は土方さんに呼び出された。
このところ忙しく走り回っていた彼とこうして話をするのは久しぶりだ。



『どうしたんですか?明日は早いですし、トシさんも寝ないと』
「そのことだが、お前には江戸に残ってもらいたい」
『は?』



私は思わず土方さんの顔を見上げた。
今はとにかく戦力が足りない。
剣の腕はやっぱり他の幹部には及ばないけれど、何より私は鬼。
ちょっとやそっとの怪我じゃ死なない。



「総司についててもらいてえんだ」
『総司に……』
「玲が江戸に来たのもそれが理由なんだろ?」



土方さんにはどうやらお見通しのようだ。
彼といい千景といい、そんなに私はわかりやすいんだろうか。



「総司もお前が傍にいれば少しは大人しくするはずだ」
『でも……』
「俺達のことなら心配ねえよ。新選組を甘く見るな」
『わかってますけど……』



それでも私はついて行きたいと思った。
新選組の役に少しでも立てるなら。
皆の役に立てるなら。



「わかってくれ。俺は玲を危険な目には合わせたくねえんだ」
『何言ってんですか、俺だって新選組の一員ですよ?』
「んなこたあわかってる。それでも、そろそろお前も自分の幸せを探してもいいんじゃねえのか?」



土方さんは困ったような顔で私を見ていた。
その表情はどこか苦しそうで、今にも泣き出しそうな、そんな顔。



「本当なら俺が幸せにしてやりてえところなんだがな、生憎俺じゃ無理みたいだ」
『な、何言ってんですか!』
「冗談で言ってんじゃねえよ。いいか、お前に総司を任せるって言ってんだ。アイツは俺の弟みたいなもんだ、光栄に思えよ」



土方さんは寂しそうに笑うと、私の頭をくしゃりと撫でた。
そして翌日、私は皆を見送ることになった。



『短い髪も似合ってますよ』
「当たり前だろ。誰に言ってんだ」
『はいはい、新選組の副長様ですよ』



洋装に着替えた皆。
髪も短くなって、なんだか別人のようだ。
土方さんはおもむろに何かを取り出すと、私の手に無理矢理握らせた。



『これ、俺が渡した……』
「返すんじゃねえぞ、与かっててもらうだけだ。次に会った時に返してくれ……いや、この戦いが終わった時に」



何か言わないと。
そう思ったのに言葉が出てこなかった。
この戦いが終わった時に彼が生きている保障なんてどこにもない。
彼はいつの間にか羅刹になっていた。
きっと私が居ない間に。
最後に昨日と同じように頭をくしゃりと撫でると、土方さんは皆に出発すると告げた。


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