私達はそれから数日かけて江戸に着いた。
千景は御丁寧にも総司が居るという宿屋まで連れて来てくれた。



『千景、ありがとう』
「別に……ただの暇つぶしだ」
『そういうことにしておくよ』
「あまり無理はするな」
『わかってる』



短い会話の後、千景は私に背を向け、その姿は次第に人の波にかき消されて見えなくなった。
一つ深呼吸をして、宿屋の中に入った。
引き戸を開ければ中に居た人と目が合った。



「玲ちゃん!?」
『総司、アンタ出歩いて大丈夫なの!?』



今まさに外に出ようとしていた総司だった。
最後に会った時よりも、少し顔色が良いようにも見える。



「ちょっと散歩に行こうかと思ってさ。玲ちゃんこそこんなところで何してるの?」
『俺は……総司に会いに……』



そう言うなり満面の笑みを浮かべた総司に手を引かれて、私は今入ろうとしたばかりの宿屋を出た。



「ねえ、皆こっちに来たんだって?」
『そうみたいだね。俺、皆とはぐれちゃってさ』
「この前土方さんが来たよ。千鶴ちゃんが玲ちゃんとはぐれたって心配してたって」
『そっか……悪いことしたかな』



すると、総司はすっと私の顔を覗き込んだ。
彼の顔はいつもみたいに何かを企んでいるような顔で、私は思わず身構えた。



「僕は嬉しいよ?こうやって玲ちゃんが会いに来てくれてさ。大阪に行かずに……」
『総司?』
「いや、何でもないよ。せっかく江戸に来たんだからさ、ゆっくり見て回ろうよ」



総司は嬉しそうにいろんな場所の案内をしてくれた。
随分と歩いて彼の体調が心配になったけれど、もしかしたら静養したことで少しは快方に向かっているのかもしれない。
宿屋に戻る頃にはすっかり日が暮れていて、部屋に入ると同時に怒鳴り声が鼓膜を揺らした。



「総司!いつまでほっつき歩いてんだ!」
「土方さん、いいじゃないですか。ほら、玲ちゃんの案内も兼ねて」
「玲って……玲!?お前いつから江戸に居たんだ!」
『今日の昼ごろですかねえ』
「お前……心配したんだぞ……」



声のトーンが落ちて、今にも泣き出しそうな顔をしている土方さんを見ると、こっちまで泣きそうになる。
無理矢理に笑顔を作ると、土方さんに向けた。



『心配かけてすみませんでした。それから千鶴のことも』
「いいんだ、アイツと平助が勝手にはぐれちまっただけらしいからな。アイツ等も心配してたからさっさと顔見せてやれよ」
『はい』
「それから千鶴のことなんだが……」



土方さんは言いにくそうな顔をして総司を見た。
総司も苦笑いをしている。
二人して何だろうと思えば、静かに土方さんが口を開いた。



「千鶴がな、玲が居なくなったって血相変えててよ。毎日のように江戸中探しまわってる」
『そうですか……千鶴にも心配かけちゃいましたね』
「いや、そうじゃなくてな……」
『なんですか?』



その瞬間、総司が堪え切れないというように笑いだした。
腹を抱えて笑う総司なんて久しぶりに見た気がする。



「玲ちゃんのこと、千鶴ちゃんは男だと思ってるんだよ?で、その彼女は君が居なくなったって探し回ってる。この前一くんが来てさ、あんなに動揺している彼女は初めて見たって」
『ちょっと、それって……』
「総司の所為だな」
『ですよね』
「やだなあ、男に間違われる玲ちゃんの所為ですよ」



悪びれもせずに涼しい顔をしている総司に、土方さんと顔を見合わせて溜息を吐いた。
彼女にどんな顔をして会うべきか……やっぱり正直に言うべきだろう。
これから先が思いやられるなと思いながら、総司の部屋の隣に用意してもらった部屋に入り、久しぶりに安眠できるような気がした。


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