『平助、御帰り』
「玲か……ただいま」



伊東さんの一件、油小路の変の後、平助は新選組に戻って来た。
いや、新撰組に戻って来たというべきだろうか。
彼は変若水を飲み羅刹となっていた。



『気分はどう?』
「良くはねえかな。まだ少し辛い」



眉間に皺を寄せる彼の表情は、未だ変若水の副作用と戦っていることを示していた。
私は小さな包みを彼に渡した。



『これ、一くんが平助にって』
「石田散薬かよ……全く一くんも相変わらずだな」
『せっかくだから飲みなよ。効果はないと思うけど』
「何だよ、それ」



以前のようにとはいかないけれど、少し笑顔を見せた彼に安心した。
きっと、私にはこの未来は変えられなかったから。
私がこの世界に来たとて、何も変わらずに物語は進んでいる。
できることなんて、ないのかもしれない。



「玲、ありがとな」



ぽつりと呟かれた言葉は、私の心に深く響いた。
まるで平助が私の心の内を知っているかのようで、思わず目を見開いた。



「何だよ、その顔。玲だけじゃねえ、皆に感謝してる。一度新選組を離れた俺をこうしてまた仲間として見てくれてんだから」
『そうだね、皆平助のこと心配してた』
「そっか……」



俯いた平助の表情を伺うことはできない。
それでもなんとなく、彼はきっと泣きそうな表情をしているのだろうと思った。
声が震えていたから。



『早くその身体に慣れて、また手合わせでもしようよ。俺も平助の居ない間に強くなったんだから』
「そうだな、玲の力量を試してやるよ」



ニカッと笑った平助は、私の知る平助だった。
明るくてお調子者で。
そんな平助だからきっと。



『そうだ、平助千鶴を庇ったんだって?やるじゃん』
「煩え!俺はただ……その、女に怪我させちゃいけねえと思って……」
『照れんなって。知ってる?千鶴自分から平助を説得するって志願したんだよ』



真っ赤になった彼の顔を見れば、千鶴への想いなんて手に取るようにわかった。
千鶴もきっと彼を。
それでもここでそのことを言っては面白くないので、もうしばらくあたふたする平助を楽しむことにした。



『元気になったら千鶴に顔見せてやりなよ』
「わかってるって!」



眉間の皺もすっかり取れた平助に別れを告げて、私は病床に伏せる総司の元へと向かった。


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