とある日の夜、眠れないからお茶でも飲もうと勝手場に行き、湯呑を手に部屋に戻っている途中。
夜も遅いのに明かりの付いている部屋を見つけた。
土方さんの部屋だ。
こんな遅くまで大変だなと思いながら、再び勝手場に行ってもう一つの湯呑を手に彼の部屋に入った。



『トシさん、失礼します』
「なんだ、まだ起きてたのか」



なんだか眠れなくて、と苦笑いすると昼寝するからだろと言われた。
暇だったんだから仕方ない。



『そろそろ寝ないと身体に障りますよ』
「玲に言われたかねえよ」
『俺は昼寝したからいいんです』
「仕事が溜まってんだ」



一くんと平助がいなくなってからというもの、残された新選組の幹部は以前にも増して忙しくなった。
とりわけ副長の土方さんは寝る暇も惜しいくらいに忙しい。
最近目の下の隈が目立つようになってきたことに気づいているのは、きっと私だけじゃないはずだ。



『時には休むことも必要なんです。はい、お茶』
「ああ」
『手を休める!そんでもってこっち向く!せっかく女子がお茶を持ってきたってのに』
「お前のどこが女子なんだよ」
『まあ、失礼しちゃいますわ!年頃の女子を前に!』
「……わかったよ、飲めばいいんだろ、飲めば」



渋々ながらも筆を置いてこちらに向き直った土方さんは、私が持ってきた湯呑を手に取った。
片膝をついてお茶を啜る姿が様になる。
これで目の下の隈さえなければ。



『トシさん、今日はもうお仕事終わりにして下さいね』
「何言ってんだ。まだやらなきゃならねえことがあるんだ」
『明日にしましょう。副長がそんな疲れた顔してたら隊士達が不安に思います』
「だが……」
『トシさんが寝るまで見張ってますからね』



すると、土方さんは一気にお茶を飲み干して髪紐をほどいた。
こうも簡単に言うことを聞いてくれるとは。



「わかったよ、もう寝るから出ていけ」
『俺を騙そうとしたって無駄ですよ。ちゃんと眠るまで見届けます』
「ったくお前は……」



私は勝手に襖を開けて布団を取り出すと、土方さんに指示した。
おずおずと布団に入る様子はなんだか怒られた子供のようだ。



「玲もんな格好でそこに居たら冷えるだろうが。何なら一緒に入るか?」
『は?』
「お前に風邪ひかれるとこっちが困んだよ」



腕を引っ張られて、私は土方さんの胸にダイブした。
やっぱり鍛えてるだけあって胸板は厚いんだななんて場違いなことを考えていると、土方さんと目があった。
何だか照れくさいのは、きっとこの状況の所為。



「なんだ、男と布団に入るのは初めてか?」
『な、何を言ってるんですか!もう子供じゃないですよ』



余裕な笑みを浮かべる土方さんが何だか憎らしい。
それにしても、そろそろ腕を離してくれないだろうか。
彼の腕はしっかりと私の腰に巻きつけられていて、見ようによればまあ……あれだ。



「なあ、玲は本当に此処に居ていいのか?」
『何ですか、突然』
「雪村はあの風間とかいう鬼に狙われてる。あの千姫とかいう奴のところにいるよりは俺らの元に居たほうが安全だと思ってんだろう。でもお前は違う。狙われてるわけでもなけりゃ自分で身を護ることもできる……自由に生きれんだよ」
『何言ってんですか。私は私の意思で此処に居るんです。トシさんの……皆の傍にいたいと思ってるんですよ』
「そうか」



最後に一言呟いて、土方さんは目を閉じた。
そのまま私も寝てしまって、翌朝目を開けると彼の顔が目の前にあることに驚いて思わず平手打ちをしてしまったのは私と土方さんだけの秘密だ。


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