それからの千鶴はよく物思いに耽っているようだった。
中庭で箒を持ったまま立ちつくしていたり、夕食のおかずを取られているのに気付かなかったり。
そんな千鶴を心配していたのは私だけではなく他の幹部も同じことのよう。



「なあ、最近千鶴の様子がおかしくねえか?」
「そうだな、平助が気づくくらいだもんな」
「左之さん、それどういう意味だよ?」
『そのまんまの意味だっての』



皆が千鶴が鬼であることを知るまでまだ時間がある。
今はただ、少しでも千鶴を元気づけたいところなのだけれど。
しかし、どうもそう簡単にはいかないようだ。

ある日の夜、騒がしい音がしたので部屋の外に出てみた。
すると、騒ぎの元は千鶴の部屋だったようで、私も急いでその場へ向かう。
千鶴の部屋には血濡れの羅刹隊の隊士が倒れていて、その前には山南さん。
とうとうこの時がきたのか、と心の中で溜息を吐く。



「なんですの、この騒ぎは!……山南さん!?どうして……」



私が到着してすぐ、部屋に現れたのは伊東さん。
彼は死んだはずの山南さんを目にして酷く驚いていた。
何とか近藤さんが彼を連れていくと、土方さんは苦虫を噛んだような表情をした。



「見られちまったからには仕方ねえな」



そして翌日、伊東派の脱退が告げられた。
同時に、平助と一くんの離隊もだ。
なんとなく中庭に足を向ければ、桜の気を見上げている一くんがいた。



『一くん』



声をかければ、いつもと変わらない表情で一くんが振り向いた。
いつもと変わらないはずなのにどこか寂しげな気がするのは気のせいだろうか。



『行くんだって?』
「ああ」
『平助もいなくなっちゃうんじゃ寂しくなるな』



一くんは何も答えなかった。
その時、ふわりと風が吹いて満開の桜の花びらが宙に舞った。
綺麗に咲き誇って儚く散る桜。
そんな桜が似合う人だと思った。



「玲」



一くんがゆっくりと近づいてきて、そっと私の頭に触れた。
何かと思えば彼の手には一枚の桜の花びら。



「新選組を、頼む」
『俺に任せて大丈夫?』
「ああ、あんたは信用できる」
『そっか……いってらっしゃい』



すると、少しだけ一くんは驚いたような顔をした。
けれど、すぐにいつもの表情に戻って私の前から去っていった。
一くんは鋭いから、きっと私が彼の任務のことを知っていると気づいたのだと思う。
それでも、最後に見た表情は少しだけ悲しそうだった。
きっとそれは、彼が土方さんを、新選組をそれだけ大事にしているということ。


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