山南さんが羅刹となったこともあって、西本願寺への屯所移転の話は急ピッチで進んだ。
そして新しい屯所へ移ってしばらくすると、皆の健康診断だと言って松本良順先生がやってきた。
それは他でもなく近藤さんが千鶴のために計らったことで、以前から顔見知りだった松本先生に会った千鶴はなんだか嬉しそうだった。



「もう、聞いてよ玲さん!」
『何ですかー伊東さん』
「私にもあの隊士達と健康診断を受けろって言うのよ!酷いと思わない?」
『あーまあそうですねえ……』



そして私はといえば、皆と一緒に健康診断を受けるわけにもいかないので中庭をぶらぶらとしていたら、こうして伊東さんに捕まってしまったのだ。
いや、別にアンタ男だから構わないだろとも言えず、ひたすらにうんうんと頷いていた。



「そうだ、玲さんは受けないの?」
『俺はもう終わりましたよ。ああいうのは早く済ませたほうがめんどくさくなくて済みますから』



というのは真っ赤な嘘で。
ここでまだだと言えば一緒に行きましょうなんてことになりかねない。
早いとこ切り上げて総司の様子でも見に行きたいところだけど、相手は伊東さんだ。
そう易々と解放してくれそうにない。
途方に暮れていると、一くんが通りがかった。



『一くん、終わったの?』
「ああ、新八が煩くて時間がかかったがな」



そっか、肉体美を見せつけようと揉めたんだっけ、とだんだんと曖昧になりつつあるゲームの内容を思い出した。
伊東さんはと言えば、お気に入りの一くんが通りかかったことで私から離れてくれるみたいだ。
哀れ、一くん。
許しておくれ。



皆の健康診断が終わった後、先生からの指示により大掃除が始まった。
どこもかしこも埃だらけで、先生が怒るのも無理はない。
そして、気が付けば千鶴の姿が見当たらなかった。



『あれ、千鶴は?』
「千鶴なら外に出ていったと思うぜ」



急いで庭へ向かうと、松本先生と総司、そしてその二人の様子を見る千鶴が目に入った。
千鶴の元へ駆け寄ると、その耳を塞いだ。
何故だかわからないけれど、そうしてしまった。



「玲さん?」
『しっ、聞こえちゃうから』



小声で千鶴を制すると、彼女を連れてその場を離れた。
きっと、彼女に聞かれることを総司は望まないと思ったから。
人に弱さを見せることが嫌いな彼だから、彼の弱さを見てしまった人には辛くあたるかもしれない。
千鶴にそんな思いをさせたくなかった。


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