聞き慣れない音とともに目を開ける。
私に向けて振り下ろされた刀が目に入ることはなく、私の視界は綺麗な浅葱色で埋め尽くされていた。



「大丈夫か?」



聞き覚えのある声。
振り向くその人は間違いなく私の知るその人で、今の世に存在するはずのない人だった。



『土方…歳三…』



様々な思考が一瞬のうちに頭を駆け巡る。
そして、はじき出された答えは自分でも信じられないモノだった。



『トリップ…?』



突然自らの名前を呼ばれたその人は驚いたような表情で私を見下ろしていた。
間違いない、私はゲームの中の世界にいる。
信じられない、こんなことが現実にあるなんて。



「おい、お前何で俺を知ってる?」

『あ、あの…助けていただいてありがとうございま…』



言い終わる前に首に冷たい感触。
それが刀だと気づくのにそう時間はかからなかった。



「君、何者?土方さんのこと知ってるみたいだけど」



初めての感触に震えが止まらない。
顔は見えないが、この刀の持ち主は沖田総司だろう。
この人が少し手を動かせば、私の命はそこでおしまい。



「総司、止めろ。見たところ武器も持ってねえみたいだし」

「土方さんがそう言うなら…」



残念だといったような口ぶりで沖田総司は私の首元から刀を離した。
さて、どうしたものか。
次に私の口から発せられる言葉が、これからの私の運命を決めるものだと思った。



『新選組の方ですよね?』



意を決して発した言葉。
目の前の二人は静かに頷いた。



「そりゃあこの羽織り見ればわかっちゃうよね?そうだよ、僕達は新選組の隊士」

『私を…殺しますか?』



私の言葉に二人は目を見開いた。
何かおかしなことでも言ったのか?



「別に殺しはしねえよ。第一殺す理由なんざねえだろうが」

『でも、私見ちゃいましたし…』



自分の言葉にはっとする。
“見てはいけないモノを見た”と自己申告してしまうなんて、私としたことが…



「だよねえ?やっぱり始末しちゃいましょうよ」

「総司は黙ってろ。お前、見慣れねえ格好してるな?“アレ”も見られちまったみてえだし、とりあえず屯所に連れてくぞ」



土方さんの言葉と同時に、私は腕を引かれ、あの新選組の屯所へと連れていかれることになった。
歩きながら、ゲームのことを考える。
私が土方さんの名前を知ってて驚かれたってことは、まだ新選組がそこまで有名じゃないってことだ。
今は一体どの辺りなんだろう。
千鶴は居るのかななんて、自分の命が危うい時に何考えてんだかと自嘲した。


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