『総司、余計なことしないでよ』

「いいじゃない、特に不都合はないんだしさ。実際、あの子はもう一年近く玲のことを男だと思ってるんだよ」

『そういう問題じゃないって』

「あの子が自分で気づくまで黙っておこうよ。あ、皆にも口止めしとかなきゃ」



嬉しそうな表情で走って行く総司の後ろ姿を見ながら溜息を吐いた。
きっと、土方さん以外は面白がって話に乗るだろう。
そして土方さんはそんなことどうでもいいと言うに決まっている。



「よっ、男の玲」

『左之さん、からかわないでくれるかな』



その夜、早速総司に話を聞いたらしい左之さんが部屋にやってきた。
手には酒を持って。



「まあまあ、こんな時には酒を飲むに限るぜ」

『左之さんはいつも飲んでるでしょうが』



そんなことねえよ、と言いながら私に杯を渡して、左之さんは勝手に酒を注ぎ始めた。
こうなったら彼に付き合う以外に道はない。



「それにしても、千鶴の奴まさかお前が本当に男だと思ってるなんてな」



良い感じに酒が回ってきたらしい左之さんは、赤らんだ顔で笑う。
睨みつけてはみたけれど、そんなこと彼はお構いなしだ。



『どうせ俺は女らしさのかけらもないですよ』

「そう拗ねんなって。俺は十分女らしいと思うぜ?」



説得力のかけらもない。
真夜中に酒を片手に女の部屋に来るか?普通。



「最近は随分と男勝りな話し方も板についちまったみてえだけどな」

『お褒めに与かり光栄です』

「そんな顔すんなって。ほら、前に着物着てた時あっただろ?あん時はちゃんと女に見えたぜ」



一くんと街に出た時のことか、と思い出す。
総司には女装だの何だのとからかわれたんだけど。



『いや、御世辞は結構だから』

「世辞なんかじゃねえよ。あん時のお前見てたらよ、男だなんて思えねえって」



はいはい、と彼の空になった杯に酒を注げば、それを一気に飲み干した。
全く、どれだけ飲めば気が済むんだか。



「とにかく、お前は女だってことだ。面白そうだから総司の遊びには付き合ってやるけどな」

『結局付き合うんじゃん!』



ツッコミも空しく左之さんは次々と酒をあおり、最終的にはその場で寝だしてしまった。
報復のつもりで一くんを呼んだら、彼は無表情で左之さんを廊下へと放り出した。
少し可哀そうだったけど、まあいいか。
平和な日常が終わるまで、後少し。


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