屯所に戻ると、土方さんが鬼の形相で迎えてくれた。
確か天王山で千景に会ったんだよなと思い返せば、今の状況が彼の所為だという結論に至った。



『もしかして……風間千景が何か言っていましたか?』

「ああ。お前はアイツと一体どういう関係なんだ?」

「副長、俺が遭遇した薩摩の天霧という男も玲のことを知っていたようです」



一くんが余計な口を挟んでくれたおかげで、土方さんはますます眉間に皺を寄せる。
下手に言い訳したところで余計に怒らせそうなので、私は正直に話すことにした。



『あのーですね、俺自身が記憶にないので何とも言えませんが、風間の話だと俺は元々こっちの世界に居たらしいんです。で、その時風間の屋敷に住んでいたらしいので彼らと知り合いなんですよ』



鬼の事は伏せておいたほうがいいだろう。
いずれ千鶴の件で明るみになるだろうし。
土方さんと一くんは二人揃ってなんだか難しそうな顔をしていたが、やがて土方さんが口を開いた。



「そうか、ならとやかく言わねえよ。ただ……それでもお前は新選組に居るつもりなのか?」

『どういうことですか?俺はもう此処に必要ないと』

「そういうわけじゃねえよ。お前にはこの世界に知り合いも居た。一緒に住んでたってんならそれなりに親しい奴だったんだろ」



土方さんは言いにくそうな顔で言った。
確かに、最初は此処以外に行くあてなんてなかったから新選組に置いてくれと頼んだ。
でも今は、それだけじゃない。
他に行くあてがあったとしても、皆と一緒に戦いたい。



『何言ってんですか、俺は新選組の隊士ですよ。他に行く場所なんてありません』



土方さんも一くんも何も言わなかった。
羅刹のことも変若水のことも知っている私をそう簡単に新選組から離れさせるなんて、本当はできないことなんだと思う。
でも、それでも彼らはきっと私が千景のところに行きたいと言えば行かせてくれるんだと思う。
こんな風に信頼されているからこそ、私はもっと皆の力になりたい。



『ほら、辛気臭い顔してないで行きましょ。新八さん辺りがまた騒ぎ出しますよ』



そろそろご飯の時間だと思い、私は二人を連れて広間へと向かった。
広間には既に皆揃っていて、昨日からほとんどまともな食事を取っていなかった私達は夢中でご飯を食べた。



『ねえ……これって総司が作ったの?』

「よくわかったね。今日は僕と平助くんで作ったよ」



にこにこと言う総司にはとてもじゃないけど言えない。
……不味いって。



「皆お腹空いてるだろうと思ってたくさん作ったんだ。よかったらもっとどう?」

『いや、俺はもういいや。一くんはおかわりもらえば?』



そう言って隣に座っている一くんに助けを求める。
少し考えるような素振りをした後、一くんは私を見た。



「いや、俺もいい。あまり味の濃いものばかり食べていると健康を害す……」

『よかったな、総司。一くんもっと食べるって』

「玲、俺はそんなことなど」

『ほら、一くん。食べて食べて』



一くんの口に無理矢理おひたしを押し込むと、観念したように口をもぐもぐとさせていた。
その場にいた皆が憐れむような目で一くんを見ていた。
平和な日常。
それがほんの一時でも、いや一時だからこそ大事にしたい。


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