『ごめん、もしかして俺を待ってた?』

「遅えぞ玲。この腹の高鳴りをどうしてくれんだ」



いつものようにわけのわからない新八さんの発言をスルーして、自分の席に座る。
いつもなら近藤さんの隣にいるはずの山南さんはいない。



「山南さんなら部屋で食事するらしい。気にすんな」



私の心中を察したかのように土方さんが言った。
左之さんといい土方さんといい、人の心を読むのが上手なようだ。
それとも私が顔に出やすいだけなのか。



『そっか。じゃあ、いただきます』



今日の当番は総司か、とやけに味の濃い食事に手を付けながら思う。
出張から帰ってきて初めての食事がこれなんて、土方さんも運が悪い。
沈黙の中で黙々と食事を進めていると、総司が口を開いた。



「そういえば、玲どこに行ってたの?」



何か買ってきたみたいだけど、と私の後ろに置いてある包みを指さした。
中身は先ほど千景に貰った着物だ。
ばれると後で面倒なので、適当にごまかすことにした。



『たまには一人で買い物もいいかなと思ってさ』

「ふうん、一人でねえ……」



何かを含んだような口ぶりだったが、総司のこれはいつものことなので気にしないことにした。
ちらりと土方さんを見れば、目が合ってしまった。
なんとも気まずい空気だ。



「俺の顔に何か付いてるか?」

『いえ、今日もお綺麗な顔だと思いまして』



その一言に総司と平助が噴き出す。
左之さんと新八さん、近藤さんは豪快に笑い、一くんと千鶴は肩を震わせている。
当の土方さんはと言えば、これまた肩を震わせている。
ただし、怒りで。



「からかうんじゃねえ!」

『いいじゃないですか、褒め言葉ですよ、トシさん』

「玲ちゃん、それ以上はやめて。僕が持たない」



あははと声を上げる総司に土方さんはさらに怒りを露わにする。
笑い声の響く広間をそっと覗いていた人がいたことに誰も気がつかなかった。


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