『風間さん、私の事を教えてくれませんか?』 少し癪ではあるけれど、この横柄な態度の鬼に私の事を尋ねてみた。 記憶がないのだと言えば、意外にもすんなりと話してくれた。 「お前の家、美空家は代々我が風間家に仕える鬼の一族であった」 風間が言うには、どうやら私はその美空家の末裔らしい。 斯くいう私も幼い頃は風間家に世話になっていたそうで。 しかし、その頃には仕えるというよりはむしろ対等に近い関係で、私と風間千景は言うなれば幼馴染といったところだそうだ。 「それがある時、お前達一族はどこかへ消えてしまった」 それは突然のことだったそうだ。 昨日までいた私達の一族は、まるでそこに存在しなかったかのように忽然と姿を消してしまったらしい。 『で、今日こうして偶然私を見つけたと』 団子を咀嚼しながら風間の話を頭の中で整理する。 風間の言う話が事実ならば、突然消えたその時に私たちは私が今まで生活してきた世界に飛ばされたといったところだろうか。 「いや、偶然ではない」 私の隣でお茶を啜りながら風間は答えた。 私達は今、甘味屋にいる。 立ち話も何だろうと思って誘ってみれば、あっさりと了承されたのだ。 「新選組に美空という隊士がいると噂で聞いた」 『それで姿を見てみれば私だったと』 そうだ、と風間は答えた。 それにしても、私の名が外に知れているなんて驚きだ。 『それにしても、よく私だってわかりましたね。一応男装しているんですが』 「お前は昔から男の様だったからな。成長して少しは女らしくなっているかと思えば……」 はあ、と風間が溜息を吐いた。 この男、失礼にもほどがある。 「それから俺の事は千景でよいと言ったであろう?お前に敬語を使われるのはむず痒くて仕方がない」 『じゃあそうするよ、千景。でさあ、私が居なくなったのっていつの話?』 幼馴染のような関係であったのなら、変に言葉を正す必要もないだろう。 それにこの男、そんなに悪い奴でもなさそうだ。 「そうだな、お前が五つか六つの頃だったな」 だとすると、私がちょうど小学校に上がる頃か。 確かに、小さい時の記憶は私にはほとんどない。 最後の団子を食べ終わると、私は立ちあがった。 『そっか、ありがと。じゃあもう行くわ』 「待て。これを持っていけ」 そう言って千景は私に先ほど呉服屋で買った着物を差し出した。 これは彼が必要で買ったものではなかったのだろうか。 「少しは女らしくしてみろ」 『失礼な。俺は新選組の隊士だから、女物は着れないんだよ』 「それならば、再会を祝しての品だ。俺が持っていたところでお前以上に使い道がない」 それもそうかと思い、ありがたく受け取ることにした。 いつか機会があれば着てみよう。 暗くなったので屯所まで送ると千景が言いだし、私達は京の町に出た。 ←→ back |