今日は土方さんと山南さんが大坂から帰ってくる日だ。
あの日左之さんにああは言われたけれど、やはり合わせる顔がなくて私は一人で京の町に出ていた。

ふと目についた呉服屋に入り女物の着物を見ていると、店員から声をかけられた。



「贈り物どすか?」

『あ、ああ……』



自分が男装しているのだということをすっかり忘れていた。
この世界に来て数か月、まだまだ心は女のままらしい。



「どないな方ですの?可愛らしい方でしたら、こちらなんていかがですやろ」



店員が持ってきたのは、桃色の着物。
千鶴に似合いそうだなと思いながらそれを手に取った。



「いいや、紅い着物はあるか?」



ふいに背後から聞こえた声。
振り返ると、金髪の男が立っていた。
その紅い目と視線が交わった瞬間、その男が誰であるのか理解した。



『風間…千景……』

「ほう、俺の事は覚えているようだな玲」



満足気な顔で風間千景は言った。
今、何と言っただろうか。
覚えている?
私が風間千景を?



「なんだ、そんなに驚くことではないであろう。久方ぶりの再会であるというのに、相変わらずの間抜け面だな」



今度はククッと笑い、風間千景は彼の要望通りの紅い着物を持ってきた店員にその着物をもらおうと言うと、私の手を引いて店を出た。



『離して下さい、風間さん』



繋がれたというよりもむしろ引っ張られていた手を振りほどくと、私は風間から距離を取った。
腰の刀に手をかけて。



「千景でよい。昔のように」



それでも笑みを崩さない目の前の男は、一体私とどんな関係があるというのだ。
昔のように、と言われたところで、生憎私は風間との記憶なんて持ち合わせていない。
しいていえばゲームの中の人物としてこちらが一方的に知っている、ただそれだけだ。



「なんだ、覚えていないのか?」

『覚えているもなにも、私は貴方のことを一方的に知っているだけで私の事を貴方が知っているはずがありませんよ』



風間からすれば、この女は頭がおかしいんじゃないかと思うだろう。
それでも、これが私の中での真実だった。
鬼の知り合いなんてこの世界に来るまでいなかった。



「顔だけではなく中身までおかしくなったか」



呆れたような表情をする風間。
顔だけではなく、とは失礼な。
これでも見るに堪えないほどの顔をしているわけではない…はずだ。



「まあ良い。そなたが覚えていなくとも俺は知っている。鬼の一族である美空玲のことを」



その一言で全ての疑問に正解がもたらされたような気がした。
こちらの世界に来てからの違和感、人並み外れた身体能力。
全ては私が鬼である所為だったらしい。


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