土方さんと山南さんが大阪に行っている間は、いうなればパラダイスだった。
そんなある日の昼食中、平助が口を開いた。



「なあ、千鶴も連れてきて一緒に飯食わねえ?」

『いいな、それ。毎回持っていくのも面倒だし』



皆が頷く中、一人怪訝な顔をしているのは一くんだ。



「しかし、副長には部屋から出すなと言われている」

『ご飯の時だけならいいだろ?土方さんには総司が上手く言ってくれるよ』

「なんで僕なの?土方さんなんて無視してればいいじゃん」



まるで興味がないといった口ぶりで食事を口に運ぶ総司だけど、はっきりと断らないということはたぶんどうにかしてくれるんだろう。
最近わかったことの一つ、総司が“嫌”と言わない時はなんだかんだで了承しているということ。
ったく、わかりにくい。



『じゃあ決まり!今日の夕食から千鶴も一緒な!』



果たして千鶴があの戦場のような食事中の光景を見てどんな顔をするのか、今から楽しみで仕方がない。
なんだかんだで私もこの世界に馴染めているじゃないかと今更のように思いながら、軽い足取りで廊下を歩く。
すると、ぽすっと何かにぶつかってよろけた。



「玲、お前ちゃんと前見て歩けよ…」



顔を上げると、呆れた表情の左之さんがいた。
私よりも背の高い彼にぶつかって、しかもこけかけたものだから、今の私は必然的に左之さんに抱きとめられるような状態になっているわけで。



『あああああごめんなさい!』



びゅんという効果音でも付きそうな勢いで左之さんから離れる。
当の彼はというと、何でもなさそうな顔をしている。
なんだか悔しい。



「そんなに驚かなくてもいいだろうがよ。別に今更お前の事を取って食ったりしねえよ」

『今更ってなんですか今更って。可愛い千鶴ちゃんが来た訳だし、俺は用済みってことですか、左之さんの浮気者ー』



口をとがらせて言ってみれば、左之さんの大きな手が私の頭をくしゃりと撫でた。



「ったく、お前は相変わらず面白えな。そんな可愛い玲ちゃんに使いを頼むぜ」



にやりと笑った左之さんは、腰をかがめて私の耳元で言葉を放った。
近い、近いから!



『…いくら鬼さんがいないからって、いいんですか?』

「ちょっとくらいいいんだよ、よろしく頼んだぜ」



再びくしゃりと頭を撫でると、左之さんは颯爽と去って行った。
残された私は急いで外に出る支度をした。
そして屯所の玄関を出ようとした瞬間、呼びとめられた。



「玲ちゃん、おでかけ?」

『総司!ちょっと、買い物に…』

「ふうん…僕も付いて行こうかな」



にやりと音の付きそうな笑みを浮かべる総司。
どうせ総司もお酒を飲むんだし、見つかったのが一くんじゃないだけマシか。



『じゃ、荷物持ちね』

「そんなに買うの?」



いいから、と私は総司と共に京の町へと出た。
此処に来た当初は全くといっていいほどこの町の地理がわからなかったけど、最近ではちょくちょく巡察に出ているせいか、少しは慣れてきた。



「買い物って…お酒?」

『左之さんに頼まれたんだ。ほら、土方さん居ないし宴会でもしようって』



左之さんらしいななんて呟きながら、総司は大量の酒瓶を手に溜息を吐いた。


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