木の上から落ちて…落ちて…着地した?
そうだ、間違いない。
落ちていく途中で身を翻し、見事に着地したんだ。



『…俺すげえ…』



身体能力の向上もここまでくると少し怖い。
それでも自分の限界を試してみたくて、平助に今度酒奢れよ、と言い残すと人の居ない場所へと走って行く。



『さて、とりあえずはジャンプ力からだな』



自分に言い聞かせるように言うと、見上げる先にある屋根に向かって思いっきり地面を蹴った。
ふわっという心地いい浮遊感の後、確かに着地した感触があった。



『ありえない…本当にできちゃったよ…』



私がいるのは間違いなく屋根の上。
積もった雪のなかに一人立っていた。
自分自身に驚きながらも、下に降りるべく再びジャンプした。
しかし、その先には目を丸くする人がいた。



「玲…何やってんだお前…」

『あ、トシさん…』



見事に土方さんに目撃されてしまったようだ。
ごまかしようもないので、私は自分自身に起こった変化について話した。
といっても私もよくわからないので、とりあえず驚異的な身体能力を身に付けたらしいとだけ言っておいた。

その日の夜、なんだか眠れなくて屯所内をうろついていた。
すると、突然背後から声をかけられた。



「玲くん、眠れないのかい?」

『近藤さん…はい、それで屯所内をふらふらと』



すると近藤さんはいつものようににっこりと笑って、おいでというように手招きをした。



「今から歳の部屋に行こうと思うんだが、一緒にどうだい?」



そう言って見せられたのはかりんとう。
この時代に来て、今まで当たり前に食べていたものが高価なもので、滅多に食べられないということが多々あった。



『ぜひ!』



餌に釣られて、軽い足取りで近藤さんの後について土方さんの部屋へと向かう。
部屋の中では予想通り、机に向かって仕事をしている土方さんの姿があった。



「俺は仕事で忙しいんだ」

『へー、トシさん近藤さんの誘いを断るんだー、ふーん』



この一言が効いたのか、土方さんは筆を置いて私たちのほうを見た。
お茶でも淹れてこようと思い、席を立った。
お茶を淹れて戻ると、近藤さんと土方さんは何やら楽しそうな顔で話をしていた。


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