『土方さーん、何の用ですか?』 一くんと部屋に入ると、文机に向かう土方さんの姿があった。 此処に来た当初とは打って変わって、私はすっかりこのイケメン集団に馴染んでいる。 現に、こうして鬼の副長とも普通に話せている。 「斎藤と枡屋について探れ」 こちらを向いた土方さんは一言だけ発した。 その一言で、私は何を命じられているのか理解した。 『動向を探れってことですか?』 「ああ。山崎達もどうやら手詰まりらしいからな」 山崎というのは、新選組の観察方の一人。 どうやら長州と繋がりがあるらしいという枡屋の主人について、一般人を装って探れということだ。 『わかりました』 了承をして部屋を出ようとすると、土方さんが私に包みを差し出した。 「お前はこれを着て行け」 『女になれってことですか?』 風呂敷を開けると、中には女物の着物。 自慢じゃないが私のこの男装はどうやら完璧らしい。 男同士で街をうろつくよりは、男女のほうが警戒心も薄れるといったところだろうか。 『でさあ、一くん。私着物着れないんだけど』 土方さんの部屋から着物を持って出てきたはいいけど、私は一人で着物を着れない。 そもそも、現代で着物を着る機会なんて、成人式とか結婚式くらいだし。 「お前は着物すら着れないのか」 呆れたような表情で溜息を吐く一くんだったが、簡単な着方だけ教えてくれた。 とりあえず下着のようなものは着ることができた。 着物を羽織り、さすがに帯を結ぶことはできないので一くんを呼んだ。 『一くーん、帯結んで』 襖を開けるとそこには顔を真っ赤にした一くんがいた。 見かけどおりというかなんというか、初なんだなあと思った。 「う、後ろを向け!」 幹部の中で一番器用そうな一くんは、ぎこちない手つきではあったが帯を結ぶことはできるようだ。 ついでに髪も結ってもらって、女装の完成だ。 『凄い!着物着るなんて成人式以来だよ!』 「成人式?」 『あー未来でいう元服みたいなものだよ』 元服…?玲には旦那がいるのか…?なんてぶつぶつ言っている一くんを他所に、私は屯所の門へと向かった。 ←→ back |