とは言っても、私はあれからずっと部屋の中に居る。
もう一週間は経ったはずなんだけれど、屯所の外はおろか、トイレと風呂以外で部屋から出ることはなかった。



『あのー少し身体を動かしたいんですけど』



恐らく外にいるであろう監視の人に向かって声をかけた。
襖を開けたのは原田佐之助だった。



「ああ…ずっと部屋に閉じこもりっきりだもんな。って言っても、屯所から出すわけにもいかねえし、どうしたもんかなあ…」



申し訳なさそうな顔で考える原田さんの後ろに、あの笑顔があった。



「じゃあさ、僕と手合わせしない?」

「総司、お前何言ってんだ!?」



その笑顔の主、沖田さんはいつものように感情の読めない笑顔でとんでもないことを口走った。



『手合わせって言っても、私に剣の心得なんてありませんよ?』



剣どころか、武術の心得なんて全くない。
武術どころかスポーツでさえまともにやったことがないというのに、これではただ怪我をしにいくようなものだ。



「そうなの?君身軽そうに思えたんだけどなあ」



一体何のことを言っているのやら。
ああそうか、この人は手合わせという名目でただ暇つぶしをしたいだけなんだ、その暇つぶしに付き合ってあげるのもいいかもしれないと思った。



『…で、これどうやって握ればいいんですか?』



沖田さんの策略にまんまと乗ってあげることにした私は、まずこの棒…竹刀の持ち方を聞いた。
剣道なんてやったこともない私は、一から教えてもらわないと何もできない。



「君の好きなように持てばいいよ。じゃ、始めるよ」



私のことなんか構いもせずに、沖田さんが向かってきた。
ここで大人しく打たれてやるのも癪だったので、無我夢中で私は竹刀を構えた。



『嘘…』



パシッという軽快な音とともに、腕に伝わる振動。
私は沖田さんの竹刀を受け止めたのだとすぐに悟った。



「へえ…なかなかやるじゃん」



その笑顔を一層深めて、沖田さんは再び私に竹刀を向けた。
私は考える余裕もなく、ただひたすらにその竹刀を受ける。
自分でも不思議だった。
沖田総司といえば有名な剣の使い手だ。
そんな人と、今こうして竹刀とはいえど戦っている自分がなんだか滑稽に思えてきた。



「守ってばっかりじゃ面白くないよ?」



薄笑いを浮かべる沖田さんに挑発されて、私は彼に向かっていった。
それはほんの一瞬の出来事だった。


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