デリケートゾーン

レディー版血盟軍夢。
タイトル通り女子のデリケートな話題が出てくるので、苦手な方には申し訳ない。


 年頃の女の子が集まってする会話の内容は甘美なスイーツのようだというイメージは誰が決めたのだろう。俗物から遮断し、ミルクと砂糖菓子を与えて温室育ちにしたお嬢様であれば不可能ではないかもしれないが、残念な事にここに集っている女子達にそのような者はいなかったのである。


「リンネってさあ、生理きてるのか?」


 ……そう、残念な事に。


「ひ、酷いな。流石にきてるって」

 角の生えた女の問い掛けに、リンネと呼ばれた女子は心外だと言わんばかりに顔を赤らめた。

「うん、まあ、冗談なんだけどさ。じゃあ処理に何使ってる?」
「何って、最近よくCMで見る吸収性の良いナプキン…」
「ほーら、やっぱりナプキンだった!姫、後で何か奢れよ」
「ふむ、派手な運動をするから使っていると思っていたんだがのォ」
「無い無い!リンネに限ってそれは無いね!」
「二人とも、そんな事で賭けなんかしてたんですか?」

 フロイラインは読んでいた本から目を離し、盛り上がるボニータと阿修羅姫を窘めた。

「本当悪趣味なんだから。リンネ、怒った方がいいと思うけど」
「え、何、どういう事?」
「だから〜、リンネはナプキン派かタンポン派かって姫と話してたんだって!」
「タンポン……」

 反芻するかのようにリンネは単語を繰り返していたが、数秒の後、やっと意味を理解したらしい。ますます顔が赤くなった。

「えっ、タンポンってアレだよね、その……中に入れるやつ」
「ほう、流石に意味は知っていたか」
「し、知ってるよ。保健で習ったから」

 あまりにも生真面目な答えにボニータが吹き出す。

「保健だって。やっぱりまだまだお子ちゃまだなー」
「お、お子ちゃま」
「リンネ、相手にしなくていいと思うよ」

 さりげなくフロイラインが助言を出したが、リンネには聞こえていないようだった。酷い酷いと呟きながら彼女は手足をバタバタさせている。

「何で馬鹿にするの!なら聞くけどさ、バッファやアシュラはどうなの」
「オレ、タンポンだけど」
「同じく」
「えっ」

 かちん、と固まるリンネをそのままに二人は続ける。

「だってタンポンの方が楽だもん。蒸れないしドバっとしないし」
「ズレる事が無いから試合の時には必須じゃな」
「気にせず風呂入れるしな!」
「えっえっ」
「正に文明の利器という言葉が相応しいのう」
「そ……そうなの……」

 あわあわしながらリンネは肩を落とす。フロイラインはもう諦めたのか、無視して本に意識を戻している。

「で、でも、さあ、タンポンってその……奥に入れるんでしょ?」
「当たり前だろ」
「確か子宮口付近?そこまで入れるはずじゃが」
「ゲェ―――――!?何それ!!!」
「何だよ大声だして……あ、もしかして怖いの?」

 にいっ、と口角を上げるボニータと対照的に、リンネの顔が青褪める。

「ち、違うもん」
「おやおや、さいですか」
「では何故震えておるのじゃ?」
「違うもんただの貧乏揺すりだもん」
「あー、そうかい」
「でもなリンネよ、後々の事を考えて使えるようになっておいて損はないと思うぞ」
「いいもんナプキンがあるから」
「そうは言ってもよー、じゃあリンネ、もし海とかプールに遊びに行った時に生理が始まっちまったらどうすんだ」
「うっ」

 海じゃナプキンは助けてくれないぜ、とニヤニヤしながら言う牛女。

「温泉旅行に行く時になったらどうするのじゃ?さて困ったのう」
「ううううう」
「オレらが楽しく海とか堪能してるの横目で見ながら、お前は一人で砂のお城作りたいのか?」
「そ、それはやだー!」


 にやり。

 タンポン派の二人が顔を見合わせたのに、リンネは気がついていない。


「なら覚えようじゃないか!」
「えっ」
「善は急げと言うしのう」
「とっとと覚えて楽になっちゃえよ!」
「そ、……そう、かな」
「そうだって!」
「案ずるな。我等が一から教えてやる」
「……なら大丈夫かな…」
「よっし、決まった!」

 じゃあ早速オレの部屋で練習しよう、とボニータがリンネの肩を抱く。後ろからは阿修羅姫がぴったりとくっついており、そのまま押されるように彼女が居間から連れ出されよう ―――とした、その時、


シュパッ


「だぁあ!?あっぶね!!」


 ボニータの顔の真横すれすれをクナイが通過していった。それと同時に、いつの間に現れたのか濃紺の着物を纏った女が、三人の前に立ちはだかっている。


「あっ、くノ一!」


 仲の良い友人の登場にはしゃぐリンネ。そんな無邪気な彼女に菩薩の如き笑顔を向けながらも、着物の女は残りの二人に殺気を向けるのは忘れない。

「は、ははは、そんなおっかない顔すんなってば!オレ達はただ悩める子羊に救いの手を差し延べただけで」
「そうじゃ、コイツが勝手にそうしただけじゃ」
「ってテメェ何オレだけに擦り付けようとしてんだよ姫ェ!……な、そんなんだから悪気は全くないんです許して下さいくノ一様、テヘヘ……」

 醜い争いと弁解に呆れたのか、後ろのソファーからはフロイラインが深い溜息を付くのが聞こえた。

「あーあ。ボク知らない」
「お前逃げる気か!」
「逃げるも何も、そもそもボクはこの件に何も関与してませんから」

 自分たちで撒いた種はちゃんと刈り取ってください、と至極正当な意見をしながら、フロイラインは読書に没頭している。

 そうこうしている間にも、くノ一は夜叉の様な表情でじりじりと近付いて来る――その手には、よく磨かれた手裏剣やクナイがありったけ構えられていた。

「……二人纏めて超人墓場に送ってあげる…」
「「ぎゃあああああ!!!!」」


*****


「あれ、バッファとアシュラは?」
「暫く旅に出るって……」
「え、旅?困ったなあ、私まだタンポンの使い方教わってないのに」
「…使いたいの?タンポン……」
「だって覚えてた方が役に立つんでしょ?試合の時とか遊びに行く時に楽だって二人が言ってたよ」
「ふーん…… 私で良かったら教えるけど」
「え、ほんとに!」
「優しくじっくり教えてあげる」
「わーい!くノ一大好き!!」
「…私もリンネ好き」

(あーあ……ボク知らない……)


(初出:2012.07.03、改訂:2019.05.06)

これを書いた一年後、単行本で描き下ろしの4人を見た時は泣きそうになりました。レディーもっと読みたかったなー。
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