ぼくらのマドンナ

ガゼルマン&ジェイド夢。
先輩カップルと色んな意味で気まずく感じる後輩ジェイドくんのお話。


「――ガゼル!」
「ああ、ライカか…」
「ジェイドと稽古してるって聞いたから、差し入れ持ってきた」

 そういって手に持ったバッグを振るライカを、きょとんとした顔でジェイドは見つめた。

「ん?どうしたジェイド。私の顔に何かついてる?」
「えっ―――いや、その」
「…お前もしかして、ライカが誰か一瞬わからなかったのか?」
「! いや、違っ」

 あからさまに動揺するジェイドに、ライカは噴き出した。

「まあ、無理もないよ。こっちの顔でジェイドとちゃんと会うのはめったになかったもんな」
「す、すみませんでしたツィガン、あっ ライカ先輩!」
「慣れない名前で無理に呼ぶことはないよ。ツィガンでいいって」
「そ、そんな……」
「じゃ、練習頑張って」

 ひらひらと手を振りながら、ライカはトレーニングルームにあるベンチに座る。

「ジェイド、続けるぞ」
「やっ……Ja!」

 慌てて踵を返すジェイド。組み手を再開するが、

「どうしたジェイド!先程より動きが遅いぞ!」
「ッ!」
「入れ替え戦で俺を倒した時の事を思い出せ!」
「っ、それは、」

彼の動きは先ほどと比べると、目に見えて鈍っていた。違和感を覚えながらも、ガゼルマンは後輩を叱咤した。しかしその甲斐もなく、ジェイドはリングに叩きつけられてしまった。


「ぐぁっ!」

 ガゼルマンは怪訝な顔をする。

「本当にどうしたんだ?」
「いえ……オレのミスです。ごめんなさい、ガゼルマン先輩」

 起き上がりながら、ジェイドは横目でライカを見た。彼女はじっと二人を見ている。その目からは表情が全く読めない。今はマスクをしていないのに…と、ジェイドは、普段彼女が身に着けている銀狼のマスクを思い出した。

「――ガゼル、休憩挟んだら?」
「…そうだな。朝からぶっ通しでやっていたから、疲れが出ているのかもしれん」

 ライカの提案にガゼルマンは頷く。

「そんな、オレはまだやれます!」
「駄目だ。一旦息抜きしろ。じゃないとこちらも練習にならん」

 ガゼルマンは冷たく言い放つと、ライカに目配せしてからトレーニングルームを後にした。
 部屋にはライカとジェイドが取り残される。ジェイドは罰の悪そうな顔をしてリングに立ちんぼうになっている。

「……座りなよ、ジェイド」
「でも」
「これは先輩命令」
「ヤッ、Ja!」

 ジェイドは慌ててリングから出てライカの側に駆け寄った。
 ライカはポンポンと自身の隣のベンチを叩く。少しまごつきはしたものの、ジェイドは大人しく座った。

「ガゼルが、『話を聞いてやれ』ってさ……」
「え?……そんな事、おっしゃってました?」
「まあ、そこそこ付き合いがあるから、それくらいは何となくわかるよ、雰囲気で」

 ライカはカップを差し出した。一礼して受け取るジェイド。中身は適度に冷やされたスポーツドリンクだった。

「――ジェイド、気にしてるんだろ」
「えっ」
「入れ替え戦の時、ガゼルを倒した事」
「そんな、こと…」

 即座にジェイドは否定しようとした。しかし、自身をまっすぐに見つめるライカの目に気圧されて、頭を振るのが精一杯であった。

「……やっぱり、ツィガン先輩には嘘付けませんね…」
「これでも一応、先輩だからね。…後は狼だし、鼻は人一倍利く」

 はは、とライカが笑う。つられてジェイドの表情も少しだけ緩んだが、まだ晴れない顔をしていた。

「何も知らなかったとはいえ、カッとなって、ガゼルマン先輩を斬ってしまった……しかも、ツィガン先輩の目の前で……」
「……念のため言っとくけど、あの時は私達まだ付き合ってないからね」
「でも!……それでもツィガン先輩にとってオレは…恋人の仇に変わりはないですよね?」
「………」

 ライカは黙って自身のカップに口を付ける。スポーツドリンクをごくりと嚥下する音が二人の間に響いた。

「私が来たから――それが気になって、集中できなかったって事?」

 ジェイドは小さく頷いた。
 その姿を見、ライカは小さく溜め息を付いた。

「――あのねジェイド、お前の事嫌いだったら、私は二人分も差し入れ持って来ないし、そもそもここにすら来てないよ?」
「あ……」
「あんたが思ってるほど、私はそんなに忍耐強くなんかないよ……本当に憎かったら、こんな悠長に話なんか聞かないで、今頃たこ殴りにしてるよ」

 ジェイドの額を冷や汗が伝う。

「でも、…なんか、お前らしいよ。気にしてくれててありがとう、ジェイド」

 ライカは手を伸ばしてジェイドの頭を撫でた。一瞬、びくりとしたジェイドだったが、されるがままになっている。


「そもそも、あの件はガゼルの阿呆がジェイドの大事な髑髏を馬鹿にしたのが悪かったんだし……」
「誰が阿呆だって?」
「うわ、わぁっガゼル!?」

 いつのまにかガゼルマンがライカの背後に立っていた。ジェイドも怯む。

「せっ、先輩、いつから…」
「――たった今、だが?」
「さてガゼルも戻ってきた事だし……はい、弁当。」

 弁当箱をジェイドに渡すライカ。包んであるハンカチの柄は何故かミッフィーちゃんだ。

「ジェイドには特別にたこさんウィンナーとうさちゃん林檎をサービスしてあげたよー」
「だ、danke schn!」
「…なんでジェイドだけ」
「そりゃあ可愛い後輩だからね」
「なっ!ライカ先輩っ…」
「何故赤くなるんだジェイド!…っていうかお前いつの間にライカって名前呼びを……まさか貴様!」


 …この後、やはり昼飯は後だ!と騒ぎながらジェイドに悪い子だを放とうとするガゼルマンを、ライカが拳骨で止める事になるのであった――


(初出:2012.03.09、改訂:2019.05.05)

悪魔の種子編でガゼルマンとジェイドが一緒にトレーニングをしているシーンがあるんですが、それが凄く好きなのです。
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