映画を観た。世界的に有名な監督が撮ったもので、最新科学で甦った恐竜たちを見世物にするテーマパークの話だ。
いつもならDVDを再生した三十分後に鼾をかいてしまう彼が、珍しく真面目に鑑賞をしている。おそらく、内容が賑やか好きな彼好みの冒険活劇だった為に、お気に召したのであろう。恐竜たちが縦横無尽に闊歩する様を、先程から楽しそうに見つめている。
「すげーなあ。マジでこんな風になったら楽しいだろうなあ」
「食われそうになるのは勘弁だわ」
「そんときゃオレが吹っ飛ばしてやるって!」
豪快な笑い声が部屋に響く。1000万パワーはこの獰猛な古生物にどこまで通用するのだろうか。肉食恐竜と押し合いをしている彼を想像したが、その勝敗は見えそうにない。吹っ飛ばすのも意外とできない事ではないかもしれない。そもそも自身が恐竜のような男なのだ、彼は。
結論を出したので映画に集中し直した。画面は豪雨の中で吠える、一頭のティラノサウルスを写していた。
恐竜のような。
適当に頭に浮かんだ表現が、意外と的を得ているのではないかと思ったのはその時である。
気づかれないように、横目で彼の様子を伺う。そういえば彼は、とある一族最後の生き残りで――目下ソファーの三分の二を独占し、ポップコーンを抱えて映画に見入っている姿からは、とてもそんな貴重な存在には見えないが、一応そうであるらしいのだ。
普段は「賑やかな場が好きなそこそこいい歳のオッサン」くらいにしか見えないこの男には、私の想像なんてとても及ぶレベルではないバックグラウンドが、確かに存在している。
世界中の人間が全て滅び、自分だけが生き残ったとしたら、はたして私はそんな世界で生きる事ができるだろうか。果てが見えない、とほうもない孤独に気が触れてしまわないだろうか。
「……バッファは、さ」
「あん?」
「こういうふうにさ、仲間が復活できたとしたら、嬉しい?」
「まあ……そりゃあ……あいつらが超人墓場から出てきた時は嬉しかったけどよ」
「ごめん、言葉が足りなかった。そっちの仲間じゃなくて、貴方の一族が、この映画の恐竜みたいに、蘇ったら嬉しいか…って、聞きたかったの」
一言一言を句切りながら問い掛けると、彼はやっと質問を理解したようだった。あーともうーとも、何とも言えない唸り声をあげ、少し間を開ける。
「うーん、同じ人種に会えるのは純粋に嬉しいかもしれねぇけど、でもなあ、そんなに上手くいくもんでもねえんだろ?オレ科学とか全くわからねえけどさ」
「……まあそうだけど」
上手くいってたらこんな展開になってないわよ、と独り言ちながら、恐竜から必死で逃げている主人公を見つめる。
「それよか、結婚して自分の子どもつくった方が手っ取り早いんじゃねーか」
「……まあ倫理的にも、一番問題ないと思うけれども」
「だろ?だから早く一緒になろーぜ?」
そんでもって角の生えたガキいっぱいつくろうぜ、と言いながら肉食恐竜に匹敵する巨体を丸めて擦り寄ってくる。おかげで私の座るソファーの領域が、とうとうゼロになった。
(初出:2012.10.31、改訂:2019.05.05)
スグル大王様が「実は寂しがり屋」とか暴露したせいで、私の中のバッファロー観がヤバいことになっているし、多分そうなっているのは私だけではないと思う。