06
黒田(独白)
さっき日野に言われた言葉の衝撃が強すぎて、それから後に話した会話の内容が曖昧になってしまった。
なんとか絞りだした言葉は"死ねば"なんていう、自分でもらしくないなぁと思える言葉だったけど、どん引きゆえに出てきた言葉だと思われているようで、特になにも茶化されなかった。ポーカーフェイスでよかったと心底思った。
あと付け加えるならば、小池と日野とおれとで、その会話をした後すぐに、望月と野々村が来てくれてよかった。5人集まれば、話題は自然と転換されたから。あのままあの会話が続いていたら、おれはきっと顔を赤くして逃げ出していた。
だって、びっくりじゃん。
あの日野が、あの馬鹿な自称美形肉食男子が、あんな真剣な顔しておれのこと話してるんだよ?
おれなら、抱けるとか言っちゃってんだよ?
照れるというか、居心地が悪いというか……小っ恥ずかしいじゃないか、そんなの。
日野のことだから、"黒田なら"なんて言い回しはしないと思ってた。アイツの下ネタは意外とゲイ関連も多かったりするから、おれに限らず男なら基本的に誰でもいけるんだと思ってた。
……だからそんな言い回しされたら、期待してしまう。
おれのこと、そういう意味ですきなのかなって。
………あれ、待って。
期待って、そういう意味って、なに。おれは日野に、なにを期待してる?
その自問自答を俯きながら始めてみる。期待なんてそんな、そういう意味って、そんな馬鹿な。
あれだけ日野と野々村を馬鹿にしてきたけれど、おれの方が馬鹿なのかもしれない。……いや、さすがにそれは言い過ぎた。
……おれってもしかして、日野のことすきなのかな、そういう意味で。
その言葉を自分に言い聞かせるように、心のなかで浮かべてみる。
するとどうだろう、"すき"という単語がおれの身体に染み込むように馴染む。びっくりしたとか、そういう曖昧なものは全て取り除かれたような気がした。
そして確信する。おれは、日野のことをすきになっちゃったんだと。
でも、あいつは馬鹿だから、"黒田なら"なんて言い回しをしたのはその場のノリだったのかもしれない。おれだけを特別視して、その場を盛り上げるためだけに。
……こんなこと考えるなんて…女々しいな、おれ。顔だけじゃなくて思考まで女々しくなってしまったのか。
それはきっと、日野が珍しく真剣な顔をして、おれのことを話したせいだ。
おれが日野をすきになったのも、日野なんかのためにおれが悩まなきゃいけないのも、今更になって顔が熱くなってきたのも、おれが女々しいのも、全部。
日野のせいだ。
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