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野々村と別所


「てーひー。これからどーする、まっすぐ帰るー? ちなみにナンパする、または逆ナンされたら僕は帰りますよーん」
「……逆ナンされるとしたら、きょーさんですよ」
「されませんーさせませんー。されたとしても僕はお断りー。不特定の女のコと遊びたくないぬー」
「……そういうところは変わってませんよね」
「んあ、なにがぁ?」


 土曜日の夕方。新しくできたセレクトショップでアクセサリーを買った帰り、1人で町を歩いていたら、女もののヘアアクセの店の中にきょーさんが居た。話しかけたら、成り行きで一緒に帰ることになった。きょーさんの実家と俺の家は近い位置にあるから、必然的といえば必然的なのだろう。

 隣を歩くきょーさんが俺に視線を向けた。俺より少し背の高いきょーさんは眉間に皺を寄せていて。顔を見て話さない限り、この機嫌の悪さはわからないだろうなぁと思わず苦笑いした。きょーさんは気持ちがすぐに顔に出るけど、声には出て来ないのだ。だから電話の時は気持ちがよみとりづらかったりする。


「…なに笑ってんのー」
「いやだってね。……高校で再会したきょーさんがまさか、そんな優男になってるなんて……っ、ぷはは、」
「…てーひーは変わってないぬー。……高校デビューしなさいよぉ」
「しましたよ。避妊するようになったなんて、大人になった、高校デビューした証拠じゃないですか」
「そーれーはー当たり前のことでしょー?」

俺が笑ったことによってさらに機嫌を悪くしたらしい。声のトーンを少し落として、俺に視線を向ける。低めの声でそのゆるい話し方をされるとさらにおもしろかった。

「ふ、はははっ…。仕方ないですよ、自分のこと"僕"って言ってるきょーさんってすごく意外なんですから」
「意外とはなんだ意外とはー。高校は上品キャラでいくって決めたのーん、だから"ぼーくー"!」
「似合わないですね」
「いい加減失礼よー」

いつまでも笑っている俺を黙らせることを諦めたきょーさんは、あっけなく俺から視線を逸らした。1つにまとめてハーフアップされた金髪は相変わらず少し傷んでいた。

「その髪色、やめないんですか?」
「やめぬー」
「どうして?」
「地毛だから」
「ははは」
「笑うでないよー」

根元は茶色のような黄土色のような何とも言えない濁った色をしていて、目の高さ辺りはレモンティーの出がらしみたいな色をしている。そして毛先は根元と同じ、なんともいえない色。
言葉で言うとボーダーみたいな髪色だが、実際はもっとややこしい。大まかにいうとそうなっているだけで、本当は根元にも毛先にもレモンティーみたいな髪の房はあるし、目の高さ辺りの髪にはもっと薄い色素の毛房もある。
 きょーさんは受験シーズンの時のみ地毛に戻して、あとはこの変なグラデーション髪だった。地毛は地毛で、変な色だけど。私立男子校のくせに校則もゆるかったから、染めていようが地毛だろうが誰にも注意とかされなかった。

「上品キャラでいくなら、地毛でもその髪染めたらどうですか、黒髪のきょーさんとか超見たいんですけど」
「やだー。」
「なんでまた。」
「アルビノだからよ」

「……誰かに褒められたんですか、その色」
「おぉー! さっすがてーひー、今ので伝わったのかー。さっすが内申点53ー、偏差値75はあるくせに内申点90分の53ー、にははー」

俺の中学の内申点を言いながらケタケタ笑うきょーさんの横顔は、少し嬉しそうに見えた。俺の内申点が低いことがそんなに面白いのか、まあ確かに、俺と同じくらい頭がいいやつらは内申80はあったけど。俺が低すぎるのか。
でも、きょーさんの内申点も53くらいだったから人のことは言えないと思う………頭の良し悪し関係なく。

「嬉しそうですね」
「うんー。だってさぁ、褒められたから変えたくないのあってるしぃ」
「ああ、なんだ、俺の内申点が低いのがそんなに嬉しいのかと」
「僕も似たようなもんだからー、それはそれで嬉しーよ?」
「嬉しくはないですよ。…それで、なんて褒められたんですか?」
「ないしょー」
「ははは」

 2人で笑って歩きながら、駅に着く。
これは寄り道なしコースだなと思って、定期をだしながら切符を買うきょーさんを見ると、こーいしちゃったんだたぶんーふふふふふーふふーふふー………と曖昧な歌詞と音の外れた懐かしい歌を口ずさんでいた。

きょーさんが恋しちゃったのか、と思わず笑ってしまった。
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