10-02

つづき


 そしてその場を去るタイミングを逃してしまい、どうやってここから離れようかと、ペンケースにペンをしまい続けるこいつの足元を見る。履いているスリッパは俺から見て右が2年の色である緑、左が1年の色である青だった。………え、こいつ、何年?



「ひのっちのっちのっちっちー! ……んあ、てーひーも来てたのぉ?」
「っ、のっさん!」

急に名前(というかあだ名?)を呼ばれたから、びっくりして反応が遅れてしまった。どうやら2組のHRは終わったらしく、教室からぞろぞろと生徒が出てくる。
俺の待っていた相手であるのっさんは、スリッパの色が左右違う、ようやくペンをしまい終えた奴に声をかけた。

「あ、きょーさん。スリッパ返しに来ましたよ」
「おぃっす! スリッパ違うとやっぱ新鮮だねぃ、移動教室の時とかさぁ、左から見たら2年なのに右から見たら1年なんだもん! あんこが僕の隣歩きたくないっつって大変だった!」

ケタケタ笑い声を上げながらのっさんは"てーひー"と呼ばれたこいつとスリッパの片足を交換する。ようやく元通りになった……ということは、こいつは1年か。

「ひのっちー、こいつとなんかしてたのぉ?」
「いいや、特になにも。ボールペン拾ってやっただけ」
「そかー、知り合いではないのかー。…紹介すんね、この青カーディガンは僕の中学の後輩だおー!」
「はじめまして、1年2組の別所照久(べっしょてるひさ)っていいます。」
「俺は、日野。よろしくな」

のっさん節によって、俺と別所はなぜかお互いに自己紹介をした。
 なんていうか……さすがのっさんの後輩、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。逃げていかなかったし。
髪は茶色だけど、かなり色素が抜けていて光の加減で白っぽくも見える。カーディガンはさっき聞いた通りの色で、青。紺なんかじゃなくて、大人っぽい落ち着いた感じの青だ。一重目蓋で眼力はそんなにないけれど冷めた目をしていて、蛇みたいだと思った。のっさんはそんな目線に見られていて、目を合わせている。慣れているのか、それとも気付いていないのかは知らないけれど、あの目に見られて平常心で居られるのはすっげぇことだと思った。


「てーひー最近どーなのよ? 相変わらず男盛り?」
「相変わらずっていうほど盛ってませんよ。…でも中学よりは慎重になりました、ちゃんと避妊しないといけませんからね。」
「そういう意味では中学の方が楽だったんじゃなあいー?」

「ちょちょちょ。え、のっさんと別所…くん?」
「呼び捨てでいいですよ」
「あ、じゃあ……のっさんと別所…の、言っている意味がわかんねぇんだけど…。避妊は必要だろ、」

さすがの俺でも廊下で避妊がどうのこうの言いたくないが、こんな話をし始めた2人が悪ぃと思うし、ほんとに言ってることが理解できない。

「んあー……そだぬ、わかんないよねぃ。……ひのっちってさぁ、男イケる口だったっけ?」
「すきに、なればたぶん…。のっさんよりは、大丈夫だと…思う」
「うん、僕よりはノンケじゃないよねぃ。…そんなちょいノンケなバイっぽいひのっちには、ちょーっとばかし言いにくいんだけどさぁ、」
「な、なに……」
「俺らの年代で、避妊が必要ない相手ってのは、2パターンあるのだ!」

のっさんは俺に言い聞かせるように、Vサインをしながら俺に詰め寄る。ちょ、顔近いんだけどっ! 別所は相変わらず微妙に微笑んだままだし! なんなのこれ!

「のっさん近い近い近い」
「ひとーつ、精通してない女のコ! そしてそしてふたーつ、…おんなじ男!!」
「………え、」

それって。

「男とヤんのか…じゃ、じゃあ、別所はゲイ……」
「じゃ、ないです。バイです、とりあえずは。」
「な、」
「なにをおっしゃるかてーひー。君はあれでしょー、誰でもいんでしょ実際はー」
「え、」
「そうですね。後腐れのない奴で突っ込むアナがあるなら誰でもいいですよ」

……。なんというか、聞いてはいけない話を聞いてしまった気がする。偏見はないけど、身近にそんな奴が居たのかと思うとげんなりというか……げんなりだ。

「…日野先輩、もしかして興味あるんですか?」
「! ないないないないやめろ、あるわけねぇだろ!」
「残念ですね、これからそのお話をたっぷり聞いて頂きたかったのに。よろしければ、挿れますよ」
「無理! むりむりむりむり! ふざけんなこの野郎、俺は帰る! のっさん悪ぃ、じゃあな!!」

そんな知識いらねぇよ! 普段俺の口にするネタは俺が挿れる側なんだよ、挿れられるなんてむりむり! ぜってぇいやだ! 死ぬ! むしろ死ね!

俺が早足で廊下を移動していると後ろから、"てーひーのどえすー"というのっさんの声が聞こえた。

……その言葉を聞いて、確かに別所はサディストっぽいなと思った、あの目とか話し方とか。
そして、周囲に避けられる俺に逃げられるなんて、あいつ何者だとも思った。…でも、"挿れる"発言を思い出したから、一瞬で別所のことを記憶から消した。
 
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