08-02

つづき


「ふぅ……小池、ごめんね?」
「お前のビビりとか吃りは今に始まったことじゃないしな、気にすんな」
「あ、うん。ありがとう。…えっと、それでね………僕って出席番号最後でしょ…?」
「…確か40番だったよな」
「うん…。それで、女子は出席番号1番の人がPTAの紙とアンケート回収でしょ? …だ、男子は、出席番号最後の人が回収しなきゃいけないんだよ……」
「ああ…。まあ、頑張れよ」

そうか、紙を集めるからビビってるのか。……いや、六条にとっては女子に関わらなくていいから喜ばしいことなんじゃないのか? こいつがいくらビビりでも、男子には普通にしてるし………。


「やややだだだだって、僕の出席番号前の人…37番なんだけど、も、も、望月くん、なんだっ」
「……………ああー、」

なるほど、そういうことか。
どうやら六条は望月に話しかけられないらしい。
本当にビビり症だな、と言いたいところだが、その気持ちはまだわからなくもない。
望月の吊り目で睨まれると怖いし、人を引き付けたくないという雰囲気があるし、美形で凄みがある。あと、野々村と日野、本人が言うように初対面の相手に冷たく接する時があるらしい。その理由は、おどおどしている姿を見るのが嫌いだからだそうだ。怯えるくらいなら話しかけるな…、それが望月が初対面のやつによく言う言葉らしい。例外的に、ウザいから冷たく接したって時もあるらしいけど、日野に対してとか。……改めて思うけど、あいつって性格悪いっつーか自分本位だなやっぱり。
 そして六条は、それを知っているから望月に話しかけられないのだろう。こいつ、怖がりでもあるからな…。

 ふと、六条の抱えている紙の束を見る。1番上は、提出したやつの名前に印を付けられる紙だった。目線をその印に辿らせると、日野にはちゃんと印が付けられていた。…こいつ、日野には話しかけれたのか。……つるんでる側からすれば、日野の方が望月の数倍話しかけたくないタイプなのだが、そんなこと言ってもなんの救いにもならないだろう。
 このまま目の前で悩まれても埒が開かないので、仕方なく、望月に声をかけてみるかぁと立ち上がろうとした、ちょうどその時。



「…お前、六条?」

おれと六条の居る机に大きな影が重なる。え、うそ。……ま、まさか、望月が、おれらのところに来るなんて! ………思っても居なかったことだけに呆気にとられてしまう。それはどうやら六条も同じようで、驚きのあまり固まっている。

「小池、六条ってこいつであってる?」
「……お、おう…」
「さんきゅ。…六条、これPTAのやつとアンケ。」
「…………え、あ、あぁ! あり、ありがあ、あ、りがとうっ」
「…悪いな。言いづらかったろ?」
「………い、いや、そそそんなこここ、と、ないっ!」
「…そんな吃られても。」

望月は独り言のようにそう言って、首を傾げた。だが然程興味もなければ心配もしていないらしく、それだけを口にして、おれ達から離れていった。


 びっくりした。…あいつが、あんなことを言うなんて。
……でも道理には、かなってる。
望月は話しかけてきたくせに怯えられるのが嫌い。だけど、自分が少なくとも距離を置かれていることには気付いている。だから、自分から話しかけた時は、あんな風に気を回すんだ……。1年の時はクラスが違ったから詳しくは知らなかったけど、日野や野々村が言っているよりは良いやつだと思う。…基本的には性格悪いと思うけど。
 清々しいほどにはっきりしているから、近寄りがたいと思われているのかもしれない。おれはそう思う。


「………もちづきくんって…、思ってたよりも、怖くない……ね、」

ぽかんとした表情で望月に対する感想を述べる六条の口調はゆっくりだったけれど、吃ってはいなかった。……拍子抜けしたのだろう、おれと同じように。


「……やっぱり日野の方が話しかけたくないタイプだな、うん。…ていうか六条、日野には話しかけれたのか?」
「…ううん。ひ、日野くんは、PTAの紙先生に直接渡してたから……、それを先生からもらったんだ。」
「…なるほどな」



 今日、数B以上にわかったことは、望月があれで案外良いやつだということだった。…基本的には性格悪いけど。
 
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