08-01

小池と望月と六条


「……こ、小池〜」


 2時間目と3時間目の間の休み時間。苦手な数Bの授業の内容を、必死で見直していたところ、弱ったような情けない声が聞こえた。
声の主に視線を向ける。するとそこにはクラスメイトの一人、六条康人(ろくじょうやすと)が立っていた。六条はおれと目が合うと顔を青ざめさせ、緊張しているように見えた。…ちなみに六条は普段からこんな感じで、事あるごとに顔を青ざめさせたり怯えたりする。女子の何人かがこいつのことを"チキンの地味平凡受け!"とかなんとか言っていたのを思い出したが、まさにその通りだ。(受けの意味は、会話においての受け身のことなのだろう)

……色々貶してはみたが、おれは六条と仲が良い。日野とか望月、野々村、黒田とつるんでいない時はだいたい一緒に昼ご飯を食べたり、一緒に帰ったりしているくらいだ。
 …というのも、おれは元々、草食系男子側の人間なのだ。大人しくて、地味で、長所も短所もない。クラスに何人かは居る冴えない男子グループの人間だ。だけどおれはそんな男子の中でも、どんな奴でも話せるタイプの人間だから、特に根暗だとか言われたことはない。自分で言うのもなんだが。
……そんなおれがなぜ、日野、望月、野々村という問題児だったり美形だったりする奴らとつるんでいるのかは最早迷宮入りの謎だと思う。おれ自身ですら、どうしてつるむようになったのかを憶えていない。…どうしてつるむようになったのかは気になるけど、思い出そうとするのも気持ち悪くて思い出そうとしないのは、今に始まったことじゃなかったりする。
……ああ、あと捕捉するなら、黒田のこと。黒田は完全な草食系男子だ。おれと同じ側………だけど中性的で綺麗な顔立ちをしているから、密かに女子に人気だ。ダサくないし冴えなくない……というよりむしろ、おしゃれで落ち着いている。草食系男子という時点においてのみ、おれと同じ側…だ。



「こここここいけえぇ、ど、どどどうぅしようぉ! ぼ、ぼ僕、もももちちづんに男子のめめいのわあああぁ!!」
「ちょ、六条、とりあえず落ち着け落ち着け! なに言ってるのか全然わからねぇよ!」

おれが遠くに思考を飛ばしている間にさらに顔を青くさせた六条は、ゆっくり深呼吸をする。…こいつ、ビビり症さえなければ普通に会話できるいい奴なのに、もったいない。
 
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