追記
2014/10/21 00:29

 君とは毎日ずっと顔をあわせるしずっと一緒にいるし君がいるから僕がいるんだって、君のおかげで僕はここにいることができるんだってことはわかってる。でも。

「君とは絶対に相容れない。君なんか嫌いだ」

僕は君にそう言うことが精一杯なんだ。
君が生まれてくれたおかげで僕は今ここにいることができるっていうのに。いや、正確には君と壁のおかげなんだけどね。
天井の僕には、床の君とは絶対に隣り合って話すことはできない。

「嫌わなくてもいいじゃない。確かに天井の君と僕はずっと毎日顔を見合わせてるだけで、飽きちゃうのかもしれないけれど、いわば運命共同体なんだよ。どんなに嫌われても僕は君から離れられないしどんなに嫌っても君は僕から逃げられない」

まるで毎日ファミレスで向かい合ってご飯を食べているようなもの。まるで毎日シチューを食べるようなもの。(カレーライスじゃないところが僕と君の関係だと思う。)
君の言ってることは正しいし僕もわかってるし受け入れている事実なんだ。でもそれとこれって別だと思わない?
悪態だってつきたくなるよ。いつまで君と顔を向かい合わせて生きていくのだろうと思うときっと嬉しいことなんだ。けれど嬉しいよりも気恥ずかしいような気持ちが刈ってしまうから、僕は嫌いだと言うしかない。

「あ、そういえば言ってなかったんだけど」
「なにさ」

君はどうでもいいことわん思い出したと言わんばかりの口調で話題を変えた。そんな話し方するほどの話題なら言わなくていいよとあくまでも面倒くさそうに答える。僕の精一杯のなにかへのアピールだ。

「僕今日の午後から、リフォームっていうか…張り替えられるらしい」
「……え」

張り替えられるってどういうこと?

「だから君とはもうバイバイかもね」

君はゆっくり笑うようにそう言った。

「バイバイかもって…なんで……。君が君であることに変わりはないてしょ? 整形みたいなものでしょ?」
「確かにそうだけど僕が完全に僕のままでいれるとは限らないでしょ。古い板から新しい板になるんだ。今までとは違う木材になるかもしれないし、フローリングじゃないかもしれないし。僕自身どうなるかわからないや」

そんなの。なにそれ。
君がいるから僕はここにいることができた。君がいたから僕はつくられたんだよ。なのに君は僕を置いていなくなるかもしれないの?

「勝手だよ」
「うん、そうかもね。運命共同体ってさっき言ったところなのにね」
「勝手だ、勝手。君も勝手だし家主も勝手だし…なんだよもう」

君が作り替えられて塗り替えられてしまうのなら僕も一緒にそうなりたい。
天井と壁はずっと向かい合わせなんだから。

僕は言いたいことをぐっと我慢して精一杯の力で家主がしたにいないのを見計らって、電球のカバーを落とした。大きな音をたてて床に飛び散った破片に少し痛そうにしていた君だったけれど僕を見るとまた笑ったように言った。

「絶対雨漏りはしちゃだめだよ」

今日は生憎の雨だ。なんとなく身体が重い。
なるほど。
君と一緒に消える方法は案外簡単に見つけられそうだ。
そして君も望んでいるという事実が僕の涙腺とやらを強く刺激した。


「あ、おかあさん! そこのかど、雨漏りしてるよ!!」

2014年10月21日



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