black forest
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「……い、…おい、起きたまえ!」
「…」
「起きろと言っているだろうが! 寝るんじゃない、早く起きろ!」
「……んん、」


 年老いた塩辛声が飛鳥の耳に響く。聞き馴染みのないその声はやけに低い位置から聞こえてくる。

「早くしろ!」
「…なぁに、ほんとうるさいんだけど……」

目をゆっくりと開けば視界に広がるのは遠い曇り空。どす黒い雲のおかげで昼なのか夜なのかも検討がつかなかった。

「うるさいとはなんだ! まったく、こんな状況でよくもまあ呑気に寝ていられるものだ!」

呆れたしわがれ声は明らかに飛鳥に対するもので、ようやく飛鳥は自分が仰向けで眠っていたことに気付いた。
上体を起こして辺りを見渡せば、灰色の鳩と自分しか居なかった。見渡す限りでは、ここが森だということしかわからない。ただ、天国にある明るくて穏やかなものとはかけ離れている。枯れたり、腐りかけたりした木の幹ばかりが目につくのに、見上げれば深い緑の葉が生い茂っているのだ。

「……どこ、ここ…」

不可解な森を見た飛鳥が何気なく口にした言葉に、鳩は飛び上がった。

「貴様はどこかもわからないのか!? 世間知らずにも程がある!」
「え………、はとが、しゃべってる…!?」

鳩が自分に話しかけているという事実に目を白黒させながら、飛び上がった鳩に恐る恐る指を差した。

「貴様もしや、私のことも知らないと言うのか?」
「…知らない。しゃべるはととか今初めて見たもん」

飛鳥は鳩に向かって正直に答えた。現状を理解するためにはこの偉そうに話す鳩と会話をするのが1番良いと判断したわけではない。単に問われたから応えただけである。

「なかなか無礼な奴だな。ここでなければ鉄槌を下したが、その時ではない。リリムが来たら一溜まりもないぞ、奴らは無差別だからな」

状況が一向に読めない飛鳥は首を傾げる。だが今自分の居るここが危険だとわかっただけで十分だと思った。

(おれ、天国からおちたからここに居るのかな。ここは人間界か地獄なのかな、人間界のはとはこんなにうるさいのかな)

なぜか焦燥感がない自身を不思議に思いながらも立ち上がった。

「き、貴様、立てるのか……!?」

立った直後に驚嘆の声を上げる鳩を飛鳥は見下ろした。そこで自分と鳩を囲む魔法陣があることに気付いた。乱雑に地面に描かれたそれは、線の色が薄くて、大した労力もかけずに描いたことが一目でわかる。

「…もしかして、魔法陣で縛られて動けないの?」
「そうだ! だから貴様を起こした! でなければ貴様などと話すわけがないだろう!」
「…偉そうなくせに魔法陣から抜け出せないわけ? なんだぁ、口だけじゃん、ほとぽっぽー」

少しむっとしたように見える鳩を横目に、飛鳥は魔法陣から出ようとする。
飛鳥は高等な天使ではない。高校生だから、半人前程度の知識と力しか持っていない。けれどなぜかこの魔法陣は簡単に出れると踏んでいた。
そして予想通り容易に魔法陣から出ることができた、そのことが鳩には予想外の出来事だったらしく、また驚いた素振りを見せた。

「…貴様、ただの世間知らずではないのか?」
「さっきから偉そうだしうるさい! ぽっぽのくせに!」

うんざりした声色でそう言えば、鳩は神妙な面持ちで黙り込んだ。今度はなんだと思いながらもその様子をじっと見つめる。ここが危険だとはわかっていたが、もしその危険が迫ったらこの鳩を身代わりにして逃げればいいと考えていた。
 しばらくして、鳩は苦虫を噛み潰したような表情で、飛鳥を見上げた。
'13/11/23 21:30 Sat
小話 comment(0) (C)miss'deliberate back

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