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fall



 雪が降り始めた通りは相変わらず賑わっている。大澤は辺りを見渡したが、祭りに騒ぐ天使達ばかりで飛鳥の姿はない。少し息切れした自身を落ち着かせていると、イルミネーションの消えかけていく木が目に入った。不規則に点滅する木は不気味に光を放っている。

「! ……宇佐見っ!」

不自然に夜の暗さに馴染んでしまった木の中に、大澤は飛鳥の後ろ姿を見つけて叫ぶ。周囲の天使達は大きな声を上げる大澤を見るが、なにもなかったかのように通り過ぎていく。

「どこ行くんだ!」

大澤には、学校でも話したことのない飛鳥をなぜ自分が止めるのかわからなかった。どこに行くのも飛鳥の勝手だというのも、追いかける必要性がないのもわかっていた。
それでも止めずにはいられなかった。

 飛鳥は大澤の声が聞こえているのかいないのか、振り返ることも立ち止まることもなかった。
大澤とは1度も話すこともないまま、飛鳥は暗闇に溶けていった。点滅していたカラフルな電灯は、ぷつりと消えてしまった。






















「雪は白いけれど触れると色を無くす。白は無実を表すけれど鈍さを増す。ならばやはりそこに殉じるべきか」

 独り言を呟きながら歩く足は止めない。
薄いコートの肩や黒い頭は雪で濡れているが、飛鳥は全く気にすることなく雪が数センチ積もった小道を歩く。中心街から遠ざかっているためか、辺りに他の誰かは居ない。近くには廃墟しかないがそれでもたまに通る者も居るのだろう、遠慮がちに明かりを灯す街灯が心細かった。

「上? それとも下? おれはどこを目指すのが適切か」

飛鳥は足を止めた。翼をはためかせ、雪を地面に落としていく。足元に広がるのは暗さで全く底の見えない崖。なにも見えないが、落ちた先にあるのは人間界だということを天使は皆知っている。
飛鳥ももちろんそれを知っていた。

「ここから落ちると天使は人間界に行ける。天国の真下にあるとされる地獄ではなく」

飛鳥は苦笑した。天国から落ちると人間界で人間として生まれ変わると教科書に書いてあり、それが天使の常識だったから。
おちると人間になるならば、なぜ堕天使という単語が存在するのかを誰も示してはくれなかったからだ。人間に生まれ変わることを堕天使という者は居ない。天国と地獄は同じ空間に存在するが、人間界は異空間に存在する。なのになぜ、おちると人間界に行き着くのか。なぜ地獄に行き着かないのか。

「落ちれば人間、堕ちれば堕天使。もしそうなのだとすれば、馬鹿げているとしか言いようがない」

 飛鳥は崖からなんの躊躇いもなく飛び降りた。正気を保っていたが、翼を動かすことなくここにも存在する重力に任せて下へとおちていく。
 飛鳥には、落ちる気など毛頭なかった。





「堕ちろ」

'13/11/15 15:31 Fri
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